◎「さばけ(捌け)」(動詞)
「さばき(捌き・裁き)」の自動表現。「さばき(捌き・裁き)」はその項(7月17日)。「さばけ(捌け)」はその「さばき(捌き・裁き)」が、魚を捌(さば)き、などのそれが自動表現になったような、崩壊解体的な意味で用いられることが多い。個別的、具体的なものごとに関し、「彼ならこの事件をさばけ(裁け)」などと言う場合は、他動表現であり、活用語尾E音化で可能を表現することが始まった後の可能表現。
「大地も七尺さばけ割れ」(『大淵代抄』:大地が崩壊解体的になった)。
「『……』と申すことばの下より、とこの上なるかもじたちまち四方へさばけのびてはちぢみ二三度とびあがりて物いはぬばかり、生あるけしき見るに身の毛たつて恐ろしく…」(「浮世草子」『好色一代男』:「いはぬ」は「言はむ」でしょう。「心中箱」なるものから束ねた遺髪などが多数無秩序に飛び散り生き物のように動いた)。
「弁舌さばけし長口上」(「浄瑠璃」『井筒業平河内通(…かはうちがよひ)』:弁舌に弁舌としても効果が現れている)。
「品物がさばける」(在庫の山も破壊崩壊的に崩れ散り、品物の品物としての効果が現れる。売れる)。
「さばけた性格の人」(堅く固まった印象ではなく、崩壊解体的でものごとへの対応に特別な拘(こだわ)りの感じられない人)。
「強ひられた時、余は已(や)む無く細長く反り返つた硝子の管を傾けて、湯とも水とも捌(さば)けない液を、舌の上に辷(すべ)らせようと試みた」(『思ひ出す事など』(夏目漱石):これは病床にある夏目漱石が妻から牛乳の入った吸い飲みを渡され、強いられ、気の進まぬまま飲む場面を書いたものですが、この「さばけぬ」は他動表現であり、ものごとを裁く(「さばき(捌き・裁き)」の項)の否定表現であり、しかも活用語尾E音で可能の意味が生じているものでしょう。つまり、裁くことができない、的確・公正なそれを現すことができない、判断し結論を出すことができない)。
◎「さばくり」(動詞)
「さばきふるひ(捌き振るひ)」。「ふるひ」は出現感を生じさせることです。捌(さば)きを(現象として)生じさせること。「さばき(捌き・裁き)」(その項)は、手綱(たづな)をさばき、などのそれなのですが、何かを、扱(あつか)う、処理する、といった意味で言われている。つまり「さばきふるひ(捌き振るひ)→さばくり」は、何かを扱うことを出来事として生じさせること、といった意味になる。
「あぶらさばくりしては、紙かなんぞにて、かならず手をのごいて、文をさばくるべき也」(『却廃忘記』:油を扱ったら…)。
「大宋国の善知識の会下にて修し死に、死してよき僧にさばくられたらんは、先づ勝縁(ショウエン:すぐれた良い縁)なり」(『正法眼蔵随問記』:死んで、良き僧に扱われる、供養される、ということ)。