◎「さとり(悟り)」(動詞)

「さつとり(さつ取り)」。「つ」は無音化している。「さつ」に関しては「さち(幸)」の項(7月7日)。これは命中させる動態を表現する(「さつや(猟矢)」「さつひと(猟人)」などのそれ)。「とり(取り)」は思念的な活性化・存在化が起こっている(→「とり(取り)」の項)。「さつとり(さつ取り)→さとり」、すなわち、命中させる動態があり、取る、とは、当たりをとる、のような意味であり、命中させ成果を得る、と、命中させることを身につける、の二つの意味がある。これが考えや認識において言われる。つまり、当たり(正解)たる考えや認識を得る。正しい認識を得る。その「悟(さと)る」内容は、人がこの世にあること、人が生きること、や、宇宙の意味といったことから、彼や彼女が浮気しているといった日常生活的なことまで、さまざまです。

「是(こ)の法(みのり)は諸(もろもろ)の法(のり)の中に最(もと)も殊勝(すぐれ)ています。解(さと)り難(がた)く入(い)り難(がた)し」(『日本書紀』:この「すぐれています」は、現代において、あの人がいちばんすぐれています、などと言うそれではありません。この「~います」は、「いみ(斎み・忌み)」という動詞を基礎にしている尊敬表現)。

「妙に医薬を閑(さと)りて善く衆生の無量の病苦を療したまふ」(『金光明最勝王経』:医薬に詳しくよく知っている) 。

「三史・五経の道々しき方をあきらかにさとりあかさむこそ愛敬(アイギャウ)なからめ」(『源氏物語』:「三史」は『史記』『漢書』『後漢書』。「五経」は『易』『書』『詩』『礼(ライ)』『春秋』)。

「過去未来の因果をさとらせ給ひなば」(『平家物語』)。

「説きおき給へる御法も方便といふ事ありてさとりなき者はここかしこたがふ疑ひをおきつべくなん」(『源氏物語』)。

 

◎「さどひ」(動詞)

「さちとおひ(幸追ひ)」。それを幸(さち)として追う。何かに夢中になること。「Aにさどひ」は、Aに心を奪われ夢中になっている。『万葉集』(万4108)の歌にある表現。

「左夫流(さぶる:誘う、のような意)その兒(こ)に……さどはせる君が心の…」(万4106)。

「左夫流兒(さぶるこ)にさどはす(佐度波須)きみが…」(万4108)。