◎「ささがに(蜘蛛)」
「さしわがやにゐ(差し輪が屋に居)」。この「さし(差し)」は異物を現し挿入すること。「傘をさす」、「網をさす(→さし網)」などの「さし」。さされたそれが「わ(輪)」の状態になっているのが「さしわ(差し輪)」。「が」は所属を表現する助詞。「さしわがや(差し輪が屋)」とはそういう輪(わ)の状態の「や(屋):家」であり、蜘蛛の巣です。「さしわがやにゐ(差し輪が屋に居)→ささがに」は、そういう状態の「や(屋):家」にいるもの、の意であり、「くも(蜘蛛)」の別名。この「さしわがや(差し輪が屋)」は罠のようでもあり、「ささ」は人を誘う言葉と同音であり、「ささがに」という語が人を誘いとらへどこかへ連れて行くような意味を持った「くも(蜘蛛)」の雅語のような扱いになる。
この語の語源は、一般に、細(ささ)蟹(がに):小さな蟹のようなもの、や、笹(ささ)蟹(がに):笹にいる蟹のようなもの、とされています。
「今しはとわびにしものをささがにの衣にかかりわれをたのむる」(『古今集』:「いましはと」は、いまはのきは(今は…の際)と、もうおしまいだ…と、ということか。しかし、蜘蛛だか蜘蛛の巣だかが衣にかかり、私を頼みにさせる(私を全的に何かに依存する状態にする)、と言っている。蜘蛛の糸にさえすがるような思いだ、ということか)。
「風吹けばまづぞ乱るる色かはる浅茅が露にかかるささがに」(『源氏物語』:ここでいう「ささがに」は蜘蛛の巣)。
・「ささがにの」という枕詞もある。蜘蛛(くも)と同音の「雲(くも)」「曇(くも)る」、蜘蛛の巣ということで「糸(いと)」、それと同音の「いとふ(厭ふ)」など、蜘蛛の巣は「い(網)」とも言うことから語頭に「い」を含む語、にかかる。「ささかにの いとはるかなる くもゐにも たえむなかとは おもひやはせし」(『玉葉和歌集』)。
◎「ささがねの(枕詞)」
「さしわがやねの(差し輪が屋寝の)」。「さしわがや(差し輪が屋)→ささが」に関しては「ささがに(蜘蛛)」の項(上記)。その「屋(や)」で寝ている、とは、そこで暮らしているということでもあり、その「さしわ(差し輪)」になにか、あるいはなにごとか、が捕らえられるのをただ寝て待っているということでもある。これは虫たる蜘蛛の印象を表現したものであり、「ささがね」は蜘蛛(くも)を意味する。そして蜘蛛はその「さしわがや(差し輪が屋)」たる網により予測的になにかを、あるいはなにごとかを、とらえる能力があるらしい。
「我が背子が来べき宵(よひ)なりささがねの(佐嵯餓泥能)蜘蛛(くも)の行(おこ)なひ今宵(こよひ)著(しる)しも」(『日本書紀』歌謡65)。