「さきえび(裂き『え』び)」。「さき」は動詞「裂(さ)き」であり、『え』は驚きの発声。問題は活用語尾の「び」ですが、これは「みみ(耳)」がそのまま動詞化している。これが四段活用動詞連用形語尾の「み」や「び」と同音であり、そのまま活用語尾となった。動詞化した「みみ(耳)」の意味は、何かを聞くことではなく、耳(みみ)を、聴覚器官を、刺激すること。それを、振動するようにふるえさせること。「さきえび(裂き『え』び→さけび」、は、突然、切り裂くような、『え』と驚く聴覚器官の刺激があること。これが、そうした行為をすることを表現する動詞になった(つまり、「さけび」は「さけぶ」努力によって生まれた動詞ではなく、他者がその響きの聴覚刺激を受けることにより生まれた動詞ということ)。ただ音響が聞こえるのではない。空間を、そして人の心を、切り裂くような音響が聞こえ、それは人の声なのです。

「天(あめ)仰(あふ)ぎ叫(さけ)びおらび」(万1809)。

「立ち踊り足磨(す)りさけび(佐家婢) 伏し仰(あふ)ぎ胸うち嘆き」(万904)。

 

印象の似た語として「おらび」「たけび(猛び)」((「を(男・雄)」がつけば「をたけび(雄叫び)」))がありますが、「さけび(叫び)」「おらび」の「び」はどちらも同じであり(表記は甲類)、活用もどちらも四段活用。「たけび(猛び)」は少し成り立ちがことなり、この動詞は上二段活用(「び」の表記は乙類)。

 

(参考再記)

◎「おらび」(動詞)

「おほほらび(大洞び)」。「ほほ」は退行化し無音化した。「ほら(洞)」は空虚化した地形部分ですが、「おほほら(大洞)」は、他の洞と比較して大きい、という意味ではなく、規模が増大化していく洞(「おほ(大・多)」の項参照)。「び」は「みみ(耳)」の動詞化であり、「さけび(叫び)」に同じ→「さけび(叫び)」の項。「おほほらび(大洞び)→おらび」は、洞(ほら)が、すなわち空洞が、その規模が増大していくような聴覚刺激を受けること。すなわち、空洞内の反響のような聴覚刺激をうけること。これも、「さけび(叫び)」と同じように、「おらぶ」努力によって生まれた動詞ではなく、他者がその響きの聴覚刺激を受けることにより生まれた動詞でしょう。

「時(とき)に大鷦鷯尊(おほさざきのみこと)御胸(みむね)を打ちおらび哭(な)きたまひて」(『日本書紀』)。

「天(あめ)仰(あふ)ぎ叫(さけ)びおらび(於良妣)」(万1809)。