◎「さけ(酒)」

「さかゑ(栄餌)」。「ゑ(餌)」は食べ物を意味する。「さか(栄)」はその項参照(5月22日)。要するに、日が射すような食べ物ということである。アルコールの効果である。原型的には「さけ(酒)」は、酒粕を漉(こ)した液体を飲むようなものではなく、米を原料にした一種の発酵食品のようなものだったでしょう。酒粕を漉した透明な酒が作られるのは室町時代頃と言われる。

「梅の花夢(いめ)に語らく雅(みやび)たる花と吾(あ)れ思(も)ふ酒(さけ:左気)に浮かべこそ」(万852)。

「汝等(なれども)は八盬折(やしほをり)の酒を醸(か)み…」(『古事記』:「八盬折(やしほをり)」の「しほ」は「潮」であり、機会、ということであり、「八盬折(やしほをり)の酒」は、幾度も、徹底的に醸造・精製した酒、ということでしょう。酒は古くからあるのですが、歌では「みき(御酒)」と詠まれたりする(「みわ」などとも言われる)。ここのこの「酒」は八岐大蛇(やまたのをろち)に飲ませるものであり、「みき」ではないでしょう。一般に「さけ」と読まれている)。

「酒 ……和名佐介 五穀之華味至也 故能益人亦能損人」(『和名類聚鈔』:飲み過ぎると害があることは古代からわかっていたようです)。「醴 ……古佐介 一日一宿酒也」(これは一晩でできる甘酒。子(こ)酒か)、「醇酒 ……加太佐介」、「酎酒 ……豆久利加倍世流佐介」(「豆久利加倍世流(つくりかへせる)」は、いうまでもなく、蒸留のこと:以上『和名類聚鈔』)。

「さふらひにてをのこどものさけたうべけるにめして、郭公(ほととぎす(※))まつうたよめ、とありければよめる」(『古今集』歌番161詞書:「さぶらひにて」とは、従者として従い、ということ。酒を「たうべ(食べ)」と言っている。酒を「のむ(飲)」という言い方もある(万338、346など)。「たうべ・たべ(食べ)」の起源は「たまへ(給へ・賜へ)」ですから、その方が丁寧な言い方ということでしょう)。

※ その161の歌に「ほととぎす」とある。また、「𪇖鷜鳥 ………和名保度々木須 今之郭公也」(『和名類聚鈔』)。

 

◎「さけ(鮭)」

「せはきけ(瀬掃き蹴)」。(産卵の際に、河の)瀬(せ)を掃(は)き蹴(け)るようにして進むもの、の意。魚の一種の名。その生態が印象的だったということです。「瀬(せ)掃(は)き蹴(け)行くもの」といった表現からその名になったのでしょう。

「鮏 ………和名佐介 今案俗用鮭字非也……」(『和名類聚鈔』:『説文』には「鮏」は「魚臭也」とある。「鮭」は『廣韻』に単に「魚名」とある)。