◎「さか(逆)」

「そはか(背努果)」。「そ(背)」は後ろ向きにあること、期待方向とは逆方向であること、を意味する(「そ(背)」の項)。「はか(努果)」は努力の成果(その項)。人間の通常の進行方向、期待進行方向、とは逆方向の印象のある努力の成果、働き、作用が「そはか(背努果)→さか」。そうした状態・情況にあることが「さかさ」(語尾の「さ」は指し示しの「さ」)、「さかさま(逆様)」。そうした状態で生まれる子が「さかご(逆子)」。逆行印象でのぼることが「さかのぼり(遡り)」。これを語幹とした動詞では「さかひ(逆ひ)」、「さかへ(逆へ)」、「さかり(逆り)」、「さからひ(逆らひ)」。

 

◎「さか(鶏冠)」

「さあか(さ赤)」。「さ」は動きを表す。動く赤いもの、の意。鶏(にはとり)の頭頂部にある扁平な肉質突起を言う。「とさか(鶏冠)」は「としさか(年鶏冠)」。(鶏が)年をとると(成長すると)現れる「さあか(さ赤)」の意。

雉(きじ)にも言われますが、(雄の)その顔面から頭部にかけて、似た赤いものがあるからでしょう。

「とさか」は、とりさか(鳥冠)、と言われることが一般的です。しかし、鳥の冠、や、鳥の赤いもの、という表現は、たとえば鶏(にはとり)の鶏冠(とさか)の表現としては一般的過ぎるように思われます。それは、成長を、さらには老成を、感じさせる、貫禄として現れる、赤、という意味なのではなかろうか。

「冠 ……朱冠 …冠訓佐加」(『和名類聚鈔』:これは『和名類聚鈔』の「羽族部」にある)。

「角 ………トサカ」「冠 ……トサカ………サカ」(『類聚名義抄』)。

「…瑞(あやしき)鶏(とり)を貢(たてまつ)れり。其(そ)の冠(さか)、海石榴(つばき)の華(はな)の似(ごと)し」(『日本書紀』:「海石榴(つばき)」は現代では一般に「椿」と書く(※下記))。

 

※ 表記の「海石榴」は中国の書に「椿(チン)」の別名としてあるものですが、なぜ「石榴(ざくろ)」なのかというと、その実の見た目が椿(つばき)と柘榴(ざくろ)は似ているからであり、「石榴(ざくろ)」は「安石(ペルシャ)」の「榴(木の瘤(こぶ))」(その実の印象)ということなのですが、「海」のそれ、とは、陸づたいに来たわけではなく、海から来たということであり、日本のということか。「つばき(椿)」と「ざくろ(柘榴)」はたしかに混乱しそうです。

「椿 …唐韻云椿…和名豆波木 木名也………漢語抄云海石榴 和名上同 本朝式等用之」(『和名類聚鈔』:日本では「海石榴」の方が正式な書き方らしい)。

ちなみに、「椿(チン)」の字に関しては、中国の古い書に「椿、櫄、杶」は皆同じとあり、「杶」はセンダン科の落葉高木であり、どうも「椿」は元来は「つばき」ではないらしい。