◎「こやし(肥やし)」(動詞)

「こえ(肥え)」(その項:1月30日)の他動表現。濃密感や充実感が感じられる状態にすること。土地を肥沃にしたり、人や動物(特に家畜)を太らせたり、感覚的に、養分を得て満足するような状態になったり(→「一時が目をこやして何にかはせむ」(『更級日記』))、評価能力を充実させたり(→「(骨董品を見る)目をこやす」)する。肥料を意味する「こやし」はこの連用形名詞化。

 

◎「こやし(臥やし)」(動詞)

「こいやり(臥い遣り)→こやり」の尊敬表現(→「こやり(臥やり)」の項:下記)。「こやらし」の「ら」が脱落した。お倒れになった(そのまま動かない。寝ついたり死んだりしている。あるいは、埋葬されている)のような表現です。

「しなてる 片岡山に 飯(いひ)に飢(ゑ)て 臥(こや)せる(許夜勢婁) その旅人(たびと)あはれ 親無しに 汝(なれ)生(な)りけめや さす竹の 君(きみ)はや無き 飯(いひ)に飢(ゑ)て 臥(こや)せる(許夜勢留) その旅人(たびと)あはれ」(『日本書紀』歌謡104:「こやせる」は「こやし(臥やし)」に助動詞「り」のついた連体形。これは聖徳太子(推古天皇の皇太子)の歌だそうです)。

「… 心ゆも 思はぬ間(あひだ)に うちなびき臥(こ)やし(許夜斯)ぬれ…」(万794)。

「波の音の騒く湊(みなと)の奥つ城(き)に妹(いも)がこやせる…」(万1807:「奥(おく)つ城(き)」は墓処)。

 

◎「こやり(臥やり)」(動詞)

「こいやり(臥い遣り)」。固まりうずくまりそれが自己放置されたようになっていることですが、要するに、倒れたまま(あるいは、倒れたように置かれたまま)動かない。ちなみに、動詞「こい(臥い・凍い)」は上二段活用。

「槻弓(つくゆみ)の臥(こ)やる臥(こ)やりも 梓弓(あづさゆみ)立てり立てりも…」(『古事記』歌謡89:動態が倒れうずくまったようになる、なっていても 立ち続けていても…(これは死んでいても生きていても、という意味なのでしょう)。ちなみに、この歌謡89にある「なかさだめる(那加佐陀賣流)」は「なかしあだめる(泣かし徒見(め)る)」ということでしょう。お泣きになり、虚しく何かを見ている。「める」は動詞「み(見)」に完了の助動詞「り(る)」の連体形)。この部分難句と言われる。