◎「こめ(米)」
「こみゑ(凝実餌)」。凝固感のある(固い)実の食べ物、の意。稲の実。
「岩(いは)の上(へ)に 小猿(こさる)米(こめ:渠梅)焼(や)く 米(こめ)だにも 食(た)げて通(とほ)らせ 山羊(かましし)の老翁(をぢ)」(『日本書紀』歌謡107:「かましし」は「かもしか(羚羊)」)。
「米 ……和名輿禰 穀實也 …粒 伊奈豆比 米甲也…………糏…古米佐木一云阿良毛土 米麥破也」(『和名類聚鈔』:割れた稲の実を「こめさき(古米佐木:米割き)」と言っており「こめ」という語はあるわけですが、「米」は「輿禰(よね)」と言っている。米粒は「いなつび(稲粒)」と言っている。「こめ」は印象が俗語ということか)。
◎「こも(菰・薦)」
「こみほ(凝実穂)」。固い実の穂、の意……とも考えられますが、「こめ」という言葉は、元来は、後に「まこも(真菰)」と呼ばれる植物の実のことだったのかも知れない。だとすれば「こも」は「こめほ(こみゑほ(凝実餌穂))」。「こめ」の「ほ(穂)」の意。すなわち、後に「まこも(真菰)」と呼ばれる植物の実が元来「こめ」と呼ばれており、後に「こめ」と呼ばれる植物の実はその「こめ」の一種として、質のいい「こめ」として広まっていったのかも知れない。その結果「こめ」という名は稲(いね)の実の名へと移り、そして、従来それがなっていた植物は、これが昔からの本当の「こめ」の穂だ、という意味で「まこめほ(真米穂)」→「まこも(真菰)」と呼ばれた……。ただし、日本で真菰(まこも)の実が食用にされていたことに関しては何の確証も実証もない(下記※(1))。ただし、アメリカ大陸においては原住者は真菰(まこも)の実を食用にしている。中国の『礼記』には食材として菰(コ:まこも)がある(これは芽を食べたか(下記※(2))。
日本で稲(いね)の栽培がいつごろから始まったかは、紀元前数千年前なのではあろうけれど、くわしいことはわかっていません。
「三島江の玉江の薦(こも)を標(し)めしより己(おの)がとぞ思ふいまだ刈らねど」(万1348:「薦(セン)」の原意は、獣が食う草、のような意)。
「真薦(まこも)刈る大野川原の水隠(みごも)りに恋ひ来(き)し妹が紐解く吾(われ)は」(万2703:「来(き)し」は「こし」と読む人もいる)。
※(1) 「まこも(菰)」は別名「かつみ」とも言いますが、これは「かていひみ(糧飯実)」か。「かて(糧)」は非常食を意味しますが、「かていひみ(糧飯実)→」は、飢饉などの、非常時に飯(いひ)になる実(み)、の意。
※(2 ) 中国語には「菰(クー:日本では、コ)」の実を表現する「菰米」という語があり、これは「可煮食」とされる。また、中国の古い字書『博雅』に「菰 蔣也。其米謂之胡(その「米」は「胡」と言う)」とある。「米(ベイ・マイ)」は稲の実(そのような穀物たる実)を意味する。『説文』には「米」は「粟實(実)也」とあり「粟」は「嘉穀實(実)也」とある。