◎「こみ(込み・混み)」(動詞)

「こ(凝)」の状態になることが意思動態的に表現されている。K音の交感とO音の遊離感のある存在感(O音に関しては「おき(置き)」の項)による「こ(凝)」の交感が、凝縮する凝固感が、表現される。

客観的な複数の対象がそうなればその複数の対象が一点へ集中していくような凝縮が生じる。「店内は多くの客でこんでいる」。「よろづよりもおはします殿の狭ければ、ここらさぶらふ御祈の僧なども、そのわたりの家どものほど広きに押し入るやうにてこみゐたり(『栄花物語』)。この凝縮は一体性も表現する。「このテーブルは椅子とこみで〇〇万です」。

凝縮・凝固感は質的濃密感や充実感、作業努力の濃密感、動態強度が増すことなども表現する。「手のこんだ造り」。「思ひ込み」、「考え込み」、「老(ふ)けこみ」、「溶(と)けこみ」、「入り込み」、「突き込み(突っ込み)」その他、他の動詞で表現される動態との複合表現が多い。その場合はその動態により「こみ(込み)」が生じる動態の凝縮・凝固感とは、動態の充実度とでもいうようなことが増す。動態の語頭に添えられ、動態の充実感、それゆえの勢いが表現されたりもする。「先陣は大庭にこみ入って…」(『義経記』)。「(笑いが)こみあげ」。

他動表現になることもある。「日をこみ」は日数がかかること→「多人数の道中に日をこみ…」(「浄瑠璃」)。「銭をこみ」は費用がかかること→「定(きま)りより二文づつ込まれ」(「歌舞伎」:もっとも、これは、使ひ込み、の省略的表現の可能性はある)。「こみつけ(込み付け)」は相手を込んだ状態、凝縮して身動きできないような状態にすること。やりこめたりやっつけたりすること。「人に口をあかせぬやうに物をいひ人をこみつくる事をこのみ、人のめいはく(迷惑)する事をよろこび」(「仮名草子」)。他動を表現する動詞につき(たくさんの服を段ボールへ)「押し込み」(本を段ボールへ)「詰め込み」などと言った場合、他動表現のような印象を受けますが、服や本に自動的に「こみ」の動態が生じている。

 

◎「こめ(込め・籠め)」(動詞)

「こみ(込み・混み)」の他動表現。何かに「こ(凝)」の凝縮感・凝固感を生じさせることなのですが、それが何かの質的あるいは状態的濃密感・充実感である場合まさにそれが言える→「思いをこめ」「霧がたちこめ」(この「こめ」は霧にとっての自動表現)。しかし、何かがおかれている情況に凝固感や濃密感を生じさせる場合、それを情況的・環境的に凝固するかのようにそれは何かに入れられる→「弾を込め」「米を蔵に込め」「人を部屋に押し込め」。後者の「こめ」は「籠め」と書かれることがある。

「雀の子をいぬきがにがしつる。ふせごのうちにこめたりつるものを」(『源氏物語』)。

「…に立てる貌(かほ)が花 な咲きいでそね (心に)こめてしのはむ」(万3575:「かほが花」が具体的にどの、あるいはどのような、花を意味するのかは明確になっていない)。

「殿の、弟にこめられさせ給ひて、藤氏の長者なども退(の)かせ給ひたるなどを」(『今鏡』:凝固感を生じさせられた、のような表現ですが、何かを言うなどして存在を示すことができない、心的に閉じ込められたような、状態にされた)。

「(理屈を言って)やりこめる」。