「ごまかはし(『ご』『ま』交はし)」。「は」のH音は退化した。「かはし(交はし)」は「かひ(交ひ)」の使役型他動表現であり、相互的動態交流させること(→「身をかはし」「言葉をかはし」)、交換させることを表現しますが(→「かはし(交はし)」の項・2021年5月20日)、「ごまかはし(『ご』『ま』交はし)→ごまかし」、すなわち、「ご」と「ま」双方を交換させるとは、「ごまごまごまごまごまご………」すなわち、「まごまごさせる」ということ(この語は江戸時代の戯作家による戯表現と思われます)。「まごまご」はどうしたらよいかわからない(自分が置かれている状況がわからない)状態になることであり(→「まごつき」の項)、人をそうした状態にさせる、あるいは、ものごとを人をそうした状態にさせるよう処理する、ことが「ごまかはし(『ご』『ま』交はし)→ごまかし」。
「滝本様(たきもとヤウ:松花堂昭乗(しょうかどう しょうじょう)を祖とする書道の流派)などをごまかす人が手本を書いて…」(「滑稽本」『浮世床』:滝本様なのかどうかわからなくさせる、本物かどうかわからなくさせる、人)。「その場をごまかす」(どういう事情になっているのかわからない状態にする)。「釣銭をごまかす」(釣銭を的確に判断できない状態にし、売る側がやれば少額しか払わない。買う側がやれば多額を払わせる)。
この語に関しては、内部が空洞になった、胡麻を材料に使った菓子(胡麻胴乱)に由来し、これを「胡麻菓子(ごまかし)」と表現し、それが動詞化し「ごまかし」とする説がありますが、動詞「ごまかし」は自分がいる情況の全体的な情況判断ができない状態にすることを意味し、内容がないのに有るように見せることを意味するわけではありません。胡麻胴乱を「胡麻菓子」と呼んだ例も聞かない(『こまどうらんめ』と人を罵っている例はある)。仏教系作法「護摩(ゴマ)」に「脅(おびや)かし」などの「~かし」がついたもの、とする説もありますが、「~かし」は名詞にはつかない。