「こなし(「こ」鳴し)」。「なし(鳴し)」は「なり(鳴り)」の他動表現(→「なし(鳴し)」の項:「畫鳴 訓鳴云那志」(『古事記』))。「たり(足り:自)・たし(足し:他)」、「かり(借り:自)・かし(貸し:他)」のような変化。意味は、鳴(な)りを、音響を、生じさせること、鳴らすこと。語頭の「こ」は硬いものと硬いものをある程度の強さで打ち合った際に発する音の擬音。「こなし(「こ」鳴し)→こなし」は、「こ」の音(ね)を響かせる、ということですが、何をしているのかというと、ある程度平らな石の上に木の実などを置き、これを石で打ち砕き細かくしている。この表現が、まとまっているものを細かく砕(くだ)きわける、なにかを碎(くだ)く、さらに、こまかく粉末状にする、そこに水分でも加わっていれば粘体状、さらには流動体状にする。また、それがものではなく、こと(や動態)であれば、それを砕き粉砕させてしまうように、抵抗や困難なくそれをおこない、ときには、その存在や意味や価値を砕いてしまうかのようになにごとかを見下したり軽蔑したりといった意味にもなり、人であってもこれを馬鹿にしたりつらいめにあわせたり、といった意味にもなる。自動表現は「こなれ」。
この語の語源説としては、「粉(こ)になす」、すなわち、粉(こ)の状態に客観的な完成的完了感を生じさせる、という意味で解することが一般と言っていい状態ですが、「こ(粉)」は『和名類聚鈔』の飲食部に置かれるような語でもあり、その状態に完成感を生じさせることが人を馬鹿にしたりつらいめにあわせたりという意味になったり、木の繊維などを流動物状態にしたりという意味になったりすることは不自然でしょう。
「椎子(しひ)を採拾(ひろ)ひて熟(こな)し喫(は)まむと為欲(おも)ふ」(『日本書紀』:粉砕する)。
「かうぞをこなして料紙すきけるとき」(『古今著門集』:楮(かうぞ)の繊維を水分とともに流動化する)。
「麦こなしたるわらを重(かさね)置ける所」(「浮世草子」:麦についた実を穂からとり分散状態にした)。
「馬を乗りこなす」。
「まみおもたげに泣はらすかほ 人 大勢の人に法華(ほっけ)をこなされて 同」 (「俳諧」『廣野 員外』:「人」は、越人、の、「同」、は、同人、の、意。「越人」は俳号。この「こなし」は、意味や価値を崩し毀し、それらを失わせるようなことを言った)。
「擾 ……カキコナス……ナブル コナス…」(『類聚名義抄』:「カキ」は「かきまはし(かき回し)」のそれに同じ。「擾(ゼウ)」は『廣韻』に「亂也、順也」とあり、なれる、ならす、したがう、といった意味がある)。
「KONASHI.-su,-ta, コナス, t.v. To reduce to powder,or make fine(粉にしたり精製したりするために粉砕する) ; to digest(消化する) ; to thresh(脱穀する) ; to deride(ばかにする), to treat with ridicule(ばかにして扱う) ; to manage or bring into subjection(統御的に管理しまたは服従させる). Tsuchi wo --, to break fine the hard soil(固い土を柔らかくほぐす). Shokumotsu wo --, to digest food(食物を消化する). Ine wo --, to thresh rice(米を脱穀する). Hito wo --, to ridicule another(誰かをばかにする). ………」(『和英語林集成』:()内の日本語訳は原文にはない)。
「頭ごなしに叱りつける」(相手の人格をただ粉砕するように叱りつける。その言い分を聞いたり事情を考えたりしない)。
◎「こな(粉)」
「こなら(粉なら)」。「ら」は消音化。「な」は均質化により属性規定を表現する「な」(→「な(助・副)」の項)。「ら」は情況、ある情況にある何か。つまり「こなら(粉なら)→こな」は、「こ(粉)」であるもの、の意。「こ(粉)」はその項。
「粖 コナ 「説文」 米麦ノ細屑」(『書言字考節用集』)。