◎「ことぶき(寿き)」(動詞)
「こともえひき(事萌え引き)」。「もえひ」が「めひ」のような音(オン)を経つつ、E音I音の連音がU音化しつつ、「ぶ」になっている。事萌えが引くのではなく、事萌えを引く。事の芽生えを引きさらにそれが育つことをすること。それを萌え育たせ発展させること。生命の発展であれ、人生やものごとの発展であれ、発展させること。特に重要なのはそのための言語表現をおこなうこと。言語表現が重要になるのは「こと(事)」は「こと(言)」だからです。
「みなおのおの思ふことのみちみちあらむかし。すこし聞かせよや。われことぶきせむ」(『源氏物語』:皆ひとりひとり、願い思うことがそれぞれあることだろう。……その願いに力を添え萌えそだたせることをしよう)。
「こやの関といふ所にして草の枕を結ぶ暁(あかつき)近き夢に、誰となき男、天神と名のりて扇を予(われ)に賜はると見侍(はべ)りて夢さめぬ。則(すなは)ち同行(どうぎやう)に語れば皆ことぶきあへり」(『筑紫道記(つくしみちのき)』:皆、吉(よ)い夢だ、とほめあったということ)。
「栄(さか)へん君の御出世を千代・万年とことぶきて」(「浄瑠璃」)。
この語は「ことぶき」という名詞がまずあり、それが動詞としても言われたものでしょう。「文帝是(これ)を受て菊花の盃を与へて万年の寿(ことぶき)を成さる」(『太平記』)。
「ことぶき」が祝いの言葉(祝言(シウゲン))、祝いのもの、さらには、祝い事たる結婚、長寿、なども意味する。「宿坊の院主あるじこまやかにして、ことぶきさへ取添へて、なさけさまざまなり」(『筑紫道記』:この「ことぶき」は旅立ちを祝う品々ということ。「あるじ」という言葉は接待主となって人をもてなすことも意味する)。
◎「ことほき(寿き)」(動詞)
「ことほき(言・事祝き)」。「こと(言)」をもって「ほく(祝く)」こと。「こと(事)」を「ほく(祝く)」こと。祝(ほ)かれた言葉は祝(ほ)きこととなる。「ほき(祝き)」はその項参照(この「ほ」は「ほめ(褒め)」の「ほ」と同じ)。
「天(あま)つ璽(しるし)の劔(つるぎ)鏡(かがみ)を捧(ささ)げ持(も)ちたまひて言壽(ことほ)き」(『祝詞(大殿祭)』)。
「うぶや(産屋)の事ありしを……ことほきをぞさまざまにしたる」(『蜻蛉日記』)。