◎「ことごと(事毎)」
事(こと)毎(ごと)に、ひとつひとつ、の意。
「触事(ことごと)に驕(おご)り慢(あなづ)りて都(かつ)て臣節(やつこらまのわきまへ)無(な)し」(『日本書紀』)。
「所設の供具、事事(ことこと)に清浄にして…」(『東大寺諷誦文・平安初期点』)。
事(こと)をひとつひとつ確認する「ことこと(事事)」という表現も一般的な表現としてもちろんあり得る。「まづさしあたりたる目の前の事にのみまぎれて月日を送ればことごとなす事なくして身は老いぬ」(『徒然草』188段)。
◎「ことごと(異事)」
異なった事(こと)。ほかのこと。
「ただこのごろはことごともなく明けくれば…」(『蜻蛉日記』)。
「仁王経誦みつるあひだ一文字もこと事を思はず」(『古本説話集』)。
・つまり「ことごと」には「悉(ことごと)」(3月23日・昨日)、「事毎(ことごと)」、「事事(ことごと)」、「異事(ことごと)」といった表現があるということです。稀な表現とは思いますが、「こと離(さ)けば」「こと降らば」(→3月20日「こと(同)」の項)と基本は同じ表現で「ことことは」という表現もある(こんな「こと」ならいっそのこと、ということ)→「…ことことは 死ななと思へど…」(万897)
◎「ことごとし(事事し)」(形シク)
「こと(事)」が二音重なったシク活用形容詞ですが、事(こと)としての過剰性が表現される。過剰であることに好感はもたれていない。事としての過剰性は煩わしいということでしょう。
「何事にかあらん。ことごとしくののしりて、足を空にまどふが…」(『徒然草』)。
「ことごとしく装束(サウゾ)き」(『枕草子』:「さうぞき(装束き)」は「装束(サウゾク)」自体を動詞化した語であり、装束を身につけること)。