◎「ごち」

「ことうち(事打ち)」。語頭の「ご」は連濁している。「うち(打ち)」は現すこと、現実化すること、を表現する(→「うち(打ち)」の項)。「ことうち(事打ち)→ごち」は事(こと)を現すこと、現実化すること。「こと(言)」を言うことがそのまま「こと(事)」になったりもする。「ひとりごとうち(独り言打ち)→ひとりごち」(独り言をすることを現す。つまり、独り言を言う)。「まつりごとうち(祀り事打ち)→まつりごち」(祀り事をすることを現す。世の中の統治を行い、政治を行う)。「はかりごとうち(謀(はか)り事打ち)→はかりごち」(謀り事をすることを現す。騙す)。これはそれらの事をすることを間接的に表現したものです。

文法の品詞分類ではこの語は、四段活用型の活用をする接尾語、と言われる。必ずなんらかの語について用いられるからです。語源的には、「ことす(事為)」であるとか、「こと(言・事)の動詞化」であるといったことが言われる(「こと(言・事)の動詞化」の場合は動詞ということか)。

「『…うしろめたきわざかな』と聞こえごつ人々もをかし」(『枕草子』:聞こえ事を打つ(現す)、とは、聞こえる事をする、わざと聞こえるように言う、ということ)。

「親聞きつけて、盃持て出でて、『わが二つの道うたふを聞け』となむ、 きこえごちはべりしかど…」(『源氏物語』:これは、親が詩歌を謡い、聞かせた)。

 

◎「こちごち」

「こつゐこつゐ(此つ居此つ居)」。「つ」は同動を表現する助詞(「時つ風」などのそれ)。此の居、此の居、と複数の何かが個々にあることが表現される。

「なまよみの甲斐(かひ)の国 うち寄する駿河(するが)の国と こちごちの国のみ中ゆ出で立てる不盡(ふじ:富士)の高嶺(たかね)は…」(万319)。

 

◎「こちごちし(骨骨し)」(形シク)

「コチゴチし(骨骨し)」。「コチ」は「骨」の音(オン:呉音)。骨が障るようであること。自然感がないというか、相手に障害感や抵抗感を生じさせてしまう状態であること。事象や態度に自然な滑らかさ(それによる品の良さ)がない。柔らかくなく、骨がさわるような感じ、ということ。

「かたち(容姿)はいとかくめでたく清げながら、ゐ中びこちこちしうおはせましかば、いかに、玉のきずならまし」(『源氏物語』:田舎びて武骨だったらどれほど玉に瑕(きず)だっただろう)。