◎「こぞ(昨夜)」

「こしそよ(来しそ夜)」。「そ」は何かを指示する。「し」は過去の助動詞「し」(その連体形)。「来(き)たその夜(よ)」と、ある日(朝や昼に)言った場合、それは昨夜です。「きぞ」という表現もある。これは「きしそよ(来しそ夜)」。動詞「き(来)」は過去の助動詞「き」の連体形と言われる「し」に接続する場合「こ」も「き」も現れる→「き(来)」の項。

「下泣きに(しのび泣きに)我が泣く妻をこぞこそは安(やす)く肌触れ」(『古事記』歌謡79:この「こぞ」は今夜のこととする説もありますが、今夜こそ肌を触れる(それ以外ありえない)という表現は、(今夜こそやるぞ、のようで)歌として奇妙でしょう)。

 

◎「こぞ(昨年)」

「こしそよ(来しそ世)」。「こぞ(昨夜)」の「よ(夜)」が「よ(世)」になっている表現です。「よ(世)」は経験経過ですが、「こしそよ(来しそ世)→こぞ」は、「そ」で特定的に限定された経験経過であり、それは来たその経過。来た特定限定的経験経過はあらゆる経過を表現しそうではあります。しかし、たとえば「こぞの秋」(万4117)と言った場合、それはその現時点において記憶として最も明瞭な昨年の秋になる。自分が「とし(年)」という特定限定的経験経過、春夏秋冬という特定的経過にいることが表現されるわけです。

「年の内に春はきにけり ひととせをこぞとやいはん ことしとやいはん」(『古今集』:月暦(旧暦)で、まだ師走なのに、暦(こよみ)の上では立春になったぞ、という歌)。

「去年 コゾ」「去季 コゾ」「昔歳 コソ」(『類聚名義抄』)。

 

◎「こそげ (刮げ)」(動詞)

「こきそけ(扱き除け)」。「こき(扱き)」に関してはその項(2月2日)。「そけ(除け)」は離脱させること。「き」は消音化した。扱(こ)いて除(のぞ)くこと。「こそげ落とす」という言い方もする。「こそげ」は汚れを落とすわけではなく、除(そ)かれたもの、扱き落とされたもの、は多くは何かに利用される。