◎「こじ(動詞)」(動詞)
「ことしひ(事強ひ)」。強引に何かをすること。「天香山(あまのかぐやま)の五百津(いほつ)眞賢木(まさかき)を、根こじにこじて(根許士爾許士而) 自許下五字以音」(『古事記』)が、木の根に強引に何かをしていることを表現し、これだけで力ずくで引き抜いたことが表現される。「火箸で戸の間をコヂた」といえば、戸の間に火箸を入れ強引にその間(ま:空域)に何らかの作用を及ぼしていることが表現される。「きびすをこぢ」といえば、足の踵(かかと)あたりにその部位としては不自然な力を加えていること(それにより踵が変形したりもしていること)が表現される。表記は「こぢ」とするものも多いですが「し」の影響による「こじ」の方が正確ではないでしょうか。
「去年(こぞ)の春いこじて(伊許自而)植ゑし我がやどの若木の梅は花咲きにけり」(万1423)。
「(窓を)こじあける」。
活用は、元来は「しひ(強ひ)」と同じ上二段活用でしょうけれど(連用形しか現れておらず、資料からはよくわからない)、後に情況を表現する活用語尾R音による「こじり(抉り)」という動詞が生まれ、その自動表現「こじれ(抉れ)」も生まれる。
「喉元をぷつりと刺し貫きこじられて其儘(そのまま)気息(いき)は絶えました」(「落語」)。
「こじれ(抉れ)」は「こじり(抉り)」をされた状態になることですが、「こじ(抉じ)」は作用・働きかけを強行することであり、それをされる情況になる、とは意思や事情になんの配慮もなく働きかけがある状態になり事態の処理ができなくなったり極度に難渋する状態になったりする。それが「こじれ(抉れ)」。「話がこじれる」。
◎「こしき(甑)」
「こしき(腰着)」。それを竈(かまど)に据えた状態が、人(女)が腰に何かを着たような(スカートでも履いたような)印象であることによる名(そうした土器(実物ではなく、それを模したもの)が出土している)。(特に米を)蒸す道具です。形状は、大きめの、そこの平らな椀状のものであり、平らな底の部分に多数の穴がある。それを湯を沸かすものの上に据え、穴を通して上がった湯気で何か(特に米)を蒸す。同じ用途の調理具は後には一般に「セイロ」と言われるようになる。これは「蒸籠」の音(オン)であり、中国語。同じ用途の、竹や木でつくられたものが「セイロ」とよばれたのでしょう(当初は土器)。
「…かまどには 火気(ほけ)吹き立てず 甑(こしき:許之伎)には 蜘蛛(くも)の巣かきて 飯(いひ)炊(かし)く ことも忘れて…」(万892:「ほけ(火気)」は煙や湯気)。
「甑 コシキ」(『運歩色葉集』(1548年))。