◎「こし(漉し)」(動詞)
「こし(籠し)」。「籠(こ)」の動詞化。「籠(かご)をして・籠(かご)を影響させて」のような表現。液状のものを(目の詰まった)籠に通す。(液体内に何かがあれば)籠に何かが残り他は籠外へ落下する。
この語は室町時代ころの俗語かという印象を受ける語です。たぶん酒造りの過程で生まれた語。醸(かも)した酒を籠(こ)を通すと籠に酒粕が残り、酒からこれが取り除かれるわけです。
「漉 コス 酒」(『温故知新書』)。「盝 コス ―物 釃 同 ―酒 漉 同 ―水」(『書言字考節用集』)。
◎「こし(濃し)」(形ク)の語源
「きおほし(来多し)」。「き(来)」は自己への到来(出現と接近)感を表現する(→「き(来)」の項)。「おほ(大・多)」は規模の増大感を表現し(→「おほ(大・多)」の項)し、「きおほし(来多し)→こし」は、自己に到来する(出現し接近する)感覚の量感が増大し充満化していく印象であることを表明する。色、味、香りなど、さまざまな種類の感覚に関して言います。生態や人間関係などに関しても言う(草や木の茂りがこかったり、男女の関係がこかったりもする)。「花の色はただひとさかりこけれども…」(『古今集』)などは光の波長がより刺激的に、情動高揚的に、変化しているということですが、「苦く渋くして滋(こ)き味はひ無けむ」(『金光明最勝王経』)などは、生命活性感の充満・充実のようなものが言われる。
「追(つゐ)の八級(やしな)には深(こき)縹(はなだ)」(『日本書紀』:これは(朝服の)色に関して言っている。「はなだ(縹)」は非常に薄い青)。
この「こ(濃)」は動詞「こえ(肥え)」の語幹「こ」にもなる。
(参考として「こえ(肥え)」再記)
「こえ(肥え)」(動詞)
形容詞「こし(濃し)」の語幹「こ」の動詞化。「こ(濃)」を語幹とする活用語尾Y音による情況表現。主体情況が濃密感・充実感のある情況になること。土地や生体なら、その生命に充実感をもたらす状態、栄養分豊かな状態になる。物や事項の評価にも充実感がある場合がある。「あの人は目がこえている」。この言葉は、後には、(体形的に)太っている、というような意味でも用いられていくようになりますが、元来はそういう意味ではありません。元来はあくまでも濃密感や充実感を表現する。
「戯奴(わけ)がためわが手もすまに春の野に抜ける茅花(つばな)ぞ食(を)して肥(こ)えませ」(万1460:原文は「戯奴」に続き小字で「變云和氣」と書かれている。「わけ」は自己を卑下した謙称たる自称とでもいう語ですが、二人称としても用いられ、その場合は相手に対してあまり遠慮や尊重感がない)。
「まろにうつくしく肥えたりし人の、すこし細やぎたるに…」(『源氏物語』:まろやかに肥えた人だったが少し細めになり…)。
「肥 …古由」(『新訳華厳経音義私記』)。