◎「こし(腰)」
「こしし(凝宍)」。「しし(宍)」はその項参照。肉(ニク)を意味する。「こしし(凝宍)→こし」は、身体の、肉付きのよい、凝固感のある肉を感じる部分、の意。人体で脊椎と骨盤の接合部から腰骨部分あたりを言う。
「海が行けば腰(こし:許斯)なづむ」(『古事記』歌謡37。「なづみ」は違和感を感じる状態で何かを包むような状態になること)。
「𦝫 ………和名古之 身中也」(『和名類聚鈔』:「𦝫」は「腰」と同字)。
この「こし(腰)」という言葉は活動力の中枢のような用いられ方をする。「(仕事に)本腰を入れる」「(ウドンの)腰が強い」。
嫁入りを意味する「こしいれ」は「輿(こし)入れ」。
◎「こし(輿)」
「こし(腰)」の独律名詞化。それがそれに乗る人の腰になり、それに装着された長柄(ながえ)を担ぎ、あるいは腰の辺りでそれを支え進行する人が足になる。乗り物の一種であり、そこに人が座し、それを複数の人が担いだり持ち上げたりして進行する。つまり、それを担いだりその轅(ながえ)を握り腰のあたりで維持する人がそれに乗る人の腰から下の部分の役割を果たすもの、ということです。その具体的な形態は、単に板に握りの取っ手のようなものがついただけのものから、小さな小屋を持ち上げるようなものまで、さまざまです。
「轝 ………或作輿 和名古之 車無輪也」(『和名類聚鈔』)。「神輿(みこし:御輿))」。嫁入りを意味する「こしいれ(こし入れ)」の「こし」もこれ。
◎「こし(層)」
「きおし(着押し)」。着(き)て(付属同動して)、おす(押す・圧す)、とは、重なるということであり、幾重もの層になること、なったそれ。たとえば「九重(ここのこし)の塔(たふ)」(『日本書紀』)は九層・九重の塔。
「層 …重居也 重也 累也 〓也 重屋高也 志奈又己志也」(『新撰字鏡』:「〓」は人偏(ニンベン:亻)に「及」のような字ですが、「仍」ということか(「仍(ジョウ・ニョウ)」には、重なる、の意味がある))。
「凡ソ高サ一百八十尺、層層(コシコシ)ノ中心ニ皆舎利有リ」(『大慈恩寺三蔵法師伝』:承徳三年(1099年)点の読み)。