◎「こころぐみ」

「こころおきうみ(心置き倦み)」。「こころぐし」(昨日)を動詞「うみ(倦み)」で表現したような表現です。動詞「うみ(倦み)」は自我の活性力が衰化すること。

「浅茅原(あさぢはら)茅生(ちふ)に足ふみこころぐみ(意具美)わが思(も)ふ妹(いも)が家(いへ)のあたり見つ」(万3057:細注「一云」の方の歌。恋の思いの憂鬱さになりつつ遠く「妹」の家の方を見ている(『万葉集』における「こころぐみ」の用例はこの歌のみ))。

 

◎「こころしらひ(心しらひ)」(動詞)

「こころしひいれいはひ(心強ひ入れ祝ひ)」。「こころしひいれ(心強ひ入れ)」は、心をそうしなければならない状態で入れ、ということであり、そうせねばならない状態で心がける、ということ。「いはひ(祝ひ)」は、身をつつしむ、のような意味になる(→「いはひ(祝ひ)」の項・2020年2月22日)。つまり「こころしひいれいはひ(心強ひ入れ祝ひ)→こころしらひ」は、心をそうしなければならない状態で入れ身をつつしみ、ということであり、これは、十分に心をこめて、や、十分に気をつけて・警戒して、といった意味になる。

「こころしらひて言(のたま)へ」(『日本書紀』:崩御になりそうな天智天皇に呼ばれた大海人皇子(後の天武天皇)にある人が与えた忠告。くれぐれも警戒して発言してください、ということ。大海人皇子はこの後その日のうちに出家し、吉野へくだり、そして「壬申(ジンシン)の乱」になっていく)。

相手や周囲を気づかいそれに配慮した対応をすることも言う。「『少納言はおとなしくて、恥づかしくやおぼさむ』と、おもいやり深くこころしらひて…」(『源氏物語』:これは、少納言は年配者なので、受け取る方は遠慮してきまずいか、と思い(贈るものを)若い娘に持って行かせた)。

「こころ(心)」がものごとなら(ものごとの心、ものごとの性向なら)、そのものごとに心がこめられており、そのものごとを熟知しそれに通じている。「兵事にこころしらひ」(『日本書紀』)。