◎「こごと」
「万3502」に「朝顔(あさがほ)の年(とし)さへこごと」という表現がある。「あさがほ(朝顔)」は後の「桔梗(キチキャウ)」。「こごと」は「凝如(こごと)」。凝固した如く、の意。全体は、桔梗の蕾(つぼみ)が一年中、開くことなく、閉じ固まったように、ということ。そうしたことは現実にはありませんが、それほどの固い、けして揺らぐことのない、思いでいることが表現される。
この「こごと」は、たとえば「小言(こごと)」と訳したりするような、さまざまな訳はなされていますが、一般に、語義未詳、とされています。
「我(わ)が目(め)妻(づま)人(ひと)は放(さ)くれど朝顔(あさがほ)のとしさへこごと(己其登)我(わ)は離(さか)るがへ」(万3502:私の目にはあなたは妻でしかない。人は離れていくが、けしてゆらぐことなく堅く、私はそれに逆らい、人々に流されたりせず自分をまもることを受けあう(約束し保証する)。「其」は漢音、キ、呉音、ゴ、ギ。この歌の一句は、一般に、我が愛(め)づる妻、と解されている。原文は「和我目豆麻」)。
◎「ここめ(醜女)」
「けおくよめ(気措く世女)」。「け(気)」が措(お)かれる、とは、異和感・異物感があるということであり、異和感・異物感がある世(よ)、とは、この世ではない世、この世とは思われない世、です。「けおくよめ(気措く世女)→ここめ」、すなわち、そういう世の女、とは、黄泉(よみ)の国へ行ったイザナキノミコトを追ったあの死霊の一群のような女を言う。
「醜女………和名志古女(しこめ) 或説云黄泉之鬼也 世人為恐小児称許許女(ここめ)者此語之訛」(『和名類聚鈔』:「ここめ」は「しこめ」の訛りだと言っている)。
「魔 …オニ ココメ」(『類聚名義抄』)。
◎「こごり(凝り)」(動詞)
「こいこり(臥い(凍い)凝り)」「い」は「ゆ」音化しつつ退化した。「こい (臥い・凍い)」極度に凝固すること。身体や動態がそうなることも言う。冷却でそうなることも言う。つまり、何かが凝固することや、寒冷で凝固したようになることです。
「兵(つはもの)手凍(こごっ)て弓を控(ひ)くに叶はず」(『太平記』)。
「兵どもこの勢ひに胆を消しこごって項(うなじ)を下げ…」(「浄瑠璃」)。
(料理の)「にこごり(煮凝り)」の「こごり」はこれ。「こごりの事、小鮒を用ふべし」(『四条流庖丁書』)。
◎「ここの(九)」
五十音順でいうとここらあたりに(数詞の)「ここの(九)」があるのですが、数詞は「ひと(一)」でまとめられます。数詞は全体を把握しつつ説明しないと納得いく理解にならないのです。