◎「こき(扱き)」(動詞)

「ひきほをおき(引穂を置き)」の動詞化。「ひ」は脱落した。「を」は状態を表現する。「ひきほをおき(引穂を置き)→こき」は、「ひきほ(引穂)」の状態に「おく(置く)」ということですが、(米の実った)稲を、穂を引く(穂が引かれる)作業状態におくこと。具体的には、古代の稲刈りは穂の部分だけを刈り取りましたが、これの元部分を握り、茎を引き実を(米を)穂から分離させる。この動作は広範に一般的に行われ、「こき」は、擦(こす)り毟(むし)り取るような動作のほか、同じような動作、すなわち、線状のものを片手で握り、他方の手でそれを引き抜きつつ握った方の手でこれをこするような動作を一般的に表現するようになる。

「稲といふものをとり出でて………五六人してこかせ」(『枕草子』:農具「せんばこき(千歯扱き)」の「こき」もこの作業)。

「椾稲 伊祢古久」(『新撰字鏡』)。「揃 …ソロフ ノコフ ムシル コク」「擿 …ツム……フルフ コク ノソク トル トトノフ……サル……ハラフ」(『類聚名義抄』)。

「…梅の花 袖にこき入れつ…」(万1644:これは花だけを袖に入れたのでしょう)。

「こき垂れて泣き」は、稲穂からしごき落とされる籾のように涙をこぼして泣く。

この「こき」は何か(例えば体内ガス、あるいは言葉)を無理やり絞り出したり無造作に絞り出されたりすることを表現し、動態をそのように表現することも行われ、言語活動を排泄物でも放出しているかのように侮蔑的に表現することにも用いられる。

「歕(ハク コク)水」(『類聚名義抄』:「歕」の字の左右両側に「ハク」「コク」の読みが書かれる)。

「霍亂 ………俗云 之利與利久智與利古久夜萬比(しりよりくちよりこくやまひ)」(『和名類聚鈔』)。「屁をこく」。

「自慢こきちらし」(「俳諧」)。「こきゃあがれ(こきやがれ)」(勝手に言ってろ)。

この「こき」によって「しごき」という動詞も生じる。

 

◎「こけ」(動詞)

「こき(汲き)」(上記)の自動表現態。汲(こ)かれた状態、実がなくなり、枯れた何もない穂先だけになったような状態、になること。「痩(や)せこける」。老いていることも言いますが、これは年をとると印象が枯れたようになるということでしょう。「長 コケタリ」(『運歩色葉集』)。

・「人をこけにする」などという場合の「こけ」は、『醒酔笑』に「座敷の興に物語をせんとする者あれば、かたはらより、こけ、こけといひて評したるときに…」という一文がありますが、この「こけ」は「こき(扱き)」の応用たる、「屁をこき」などの、「こき」の已然形であり、例文の「こけ、こけ」は、いい加減なことを言って、や、嘘つけ、のような、物語をしている人をばかにした言動であり、そうした用いられ方により、「こけ」が、人からばかにされるような、愚かなことやそれをする愚かな人を意味するようになり、「人をこけにする」も、人をばかにする、という意味になったということでしょう(つまり、この「こけ」は「こけ(転け)」でも「こき(汲き)」の自動表現でもないということ。さらには、「苔(こけ)」でも漢語の「虚仮(コケ)」でもない。この「こけ」の語源も実はよくわかっていない)。ちなみに、上記『醒酔笑』の例文では、『こけこけ』と言われた、物語をしていた人は腹をたて、『此咄(このはなし)を、そちどもにきけにてはなし、我は物語をふくしてあそぶよ』と言い返したそうですが、これは「(ゲロなどを)吐(こ)き」、「(薬を与え)効(き)き・(話を)聞き」、「(薬を)服(フク)し」、ということであり、(ゲロなどを)吐(こ)いているのはお前たちだ、ということでしょう。

 

◎「こき(撲き)」(動詞)

「こけ(転け)」(1月31日)の他動表現。転倒させるような、転がすような、影響を与えること。(とりわけ棒のようなもので)撲(う)つことを意味する。「杖を奪て頭をこく」(『蒙求抄』)。

※ つまり「こけ(転け)」の他動表現には「こかし(転かし)」と「こき(撲き)」があるということです。「こかし(転かし)」は転倒させたり喪失させたり騙したりすること。「こき(転き)」は、特に頭部に、それを転がり落とすかのような打撃を加えること。