形容詞「こし(濃し)」の語幹「こ」の動詞化。「こ(濃)」を語幹とする活用語尾Y音による情況表現。主体情況が濃密感・充実感のある情況になること。土地や生体なら、その生命に充実感をもたらす状態、栄養分豊かな状態になる。物や事項の評価にも充実感がある場合がある。「あの人は目がこえている」。この言葉は、後には、(体形的に)太っている、というような意味でも用いられていくようになるが、元来はそういう意味ではない。元来はあくまでも濃密感や充実感を表現する。

 

「戯奴(わけ)がためわが手もすまに春の野に抜ける茅花(つばな)ぞ食(を)して肥(こ)えませ」(万1460:原文は「戯奴」に続き小字で「變云和氣」と書かれている。「わけ」は自己を卑下した謙称たる自称とでもいう語ですが、二人称としても用いられ、その場合は相手に対してあまり遠慮や尊重感がない)。

「まろにうつくしく肥えたりし人の、すこし細やぎたるに…」(『源氏物語』:まろやかに肥えた人だったが少し細めになり…)。

「肥 …古由」(『新訳華厳経音義私記』)。