◎「こうじ(因じ)」(動詞)

「キュウをうんじ(窮を倦じ)」。「を」は、目的をではなく、状態を表現する。窮(きは)まった状態で倦(うん)じる(倦み果て嫌になっているような動態になる。「うんじ(倦じ)」はその項)。この「うんじ(倦じ)」は「うじ」とも書かれる(「ふすへられたる程、あらはに、人もうし給ひぬへけれは、ぬきかへて、御ゆとの(御湯殿)なといたうつくろひ給」(『源氏物語』))。音(オン)は、くをうじ、のような音(オン)が、こうじ、になるわけです。漢字表記は「困じ」が一般的ですが、「極じ」とも書く。

音(オン)の似た「かうじ」は「昂(カウ)じ」であり、いろいろな意味で、昂(たか)まること→「病がかうじる」(病がひどくなる)。「趣味がかうじて本業になる」。

ほかに、人が亡くなることを意味する「こうじ(薧ず)」、講義する「こうず(講ず)」、伺候する「こうず(候ず)」などもある。

「一丁の程をいしばし(石階)おりのぼりなどすれば、ありく(歩く)人こうじて、いと苦しうするまでなりぬ」(『蜻蛉日記』:活動がきわまった)。

「水ぞ遠かなれど、困うぜさせ給ひにたれば、人の召し物はここにて召すべきなり」」(『古本説話集』:活動能力がきわまり、これ以上の移動は嫌だ)。

「この聖困じて物いと欲しかりければ道すがら(水葱(なぎ:水葵)を)折りて食ふほどに」(『宇治拾遺物語』:空腹になりきわまった)。

「山に入て、狩し給ふに、善く行き羸(つか)れて、極(こう)じ給へるに」(『今昔物語』:これは飢えた)。

 

◎「こうもり(蝙蝠)」

「かうもり」の音変化。→「かはほり(蝙蝠)」の項(2021年5月6日)。動物の一種の名。