「こひいよおひ(凝氷愈覆ひ)」。「ひいよおひ」が「い」(y音)の一音になっている。「こひ(凝氷)」は固まった氷(こほり:「こ」は「こり(凝り)」にあるそれであり、水が温度冷却により固体化することを「こり(凝り)」とも言い、「水こり」「氷(ひ)こり」「雨こりて雪となり」といった言い方をする)。「いよ(愈)」は程度を増し、進んで行くことを表現する。「こひいよおひ(凝氷愈覆ひ)→こい」は、凍(こほ)りついていく状態になること。これが、動態に関し、それが固まって行くようなものであることを表現する。柔らかいものが固くなるわけではありません。動態が凝集・凝縮したようになる。それにより結果的に流動体が固化したりもする。「こいふし(臥い伏し)」(万3962)は寝たきりの状態になること。『万葉集』では「反側」(寝返りをうつこと)や「展転」(転がること)が「こいまろび」と読まれていますが(下記)、「まろび」は転倒(転がること)も意味しますが、基本的な意味は丸くなることであり(それによって転がったり転がるように倒れたりする)、「こいまろび」は凝り固まるように(うずくまるように)丸くなることでしょう。「反側」の例(下記・万1740)では玉手箱を開いた浦島太郎がうずくまり、「展転」の例(下記・万2274)では「朝顔」が「こいまろび」恋の思いを表に出さないと言っている。『万葉集』の時代の「あさがほ(朝顔)」は後の「桔梗(ききゃう)」でしょう。その、まるで口を固く閉ざしているような蕾(つぼみ)は丸みを帯び固まったような形状です。つまり、「こい(臥い)」の基本的意味は動態が凝り固まること、そのような動態になること、だということであり、「こいまろび」は固まったように丸くなることだということです。
「こい」というこの動態表現は極度の冷却により身が収縮するような状態になること、すなわち、凍(こご)えること、も意味する(この用法の場合を別の動詞として分類しても問題ない)。「錦繍ノ粧(ヨソヒ)ヲ生ジテ寒(コイ)タル身ニ襲(キ)セ」(『東大寺諷誦文稿』)。
この動詞は上二段活用です。
「こいまろび(反側)足ずりしつつ たちまちに 情(こころ)消(け)失せぬ」(万1740)。
「こいまろび(展転)恋ひは死ぬともいちしろく色には出でじあさがほ(朝容貌)の花」(万2274)。
「こいまろび(展転)ひづち(濡れて)泣けどもせむすべもなし」(万475) 。
「其(そ)れ天(あめ)の君(きみ)を立(た)つるは是(これ)百姓(おほみたから)の爲(ため)なり。然(しか)れば君(きみ)は百姓(おほみたから)を以(も)て本(もと)と爲(な)す。是(ここ)を以(も)て、古(いにしへ)の聖王(ひじりのきみ)は、一人(ひとりのひと)も飢(う)ゑ寒(こ)ゆるときには、顧(かへり)みて身(み)を責(せ)む」(『日本書紀』)。
「鳴 ………………寒鴟讀古伊太流止比」(『和名類聚鈔』:「鴟(シ)」は鳥のトビ(鳶・鴟))。