◎「こ(蚕)」

「いきを(生き緒)」。「い」の脱落。「を(緒)」は線状の長いものを意味する。生きた線状の長いもの、の意。「かひこ(蚕)」は単に「こ」とも言い、この「こ」という語は蚕(かひこ)を意味するような印象にもなりますが、元来は、いわゆる「いもむし(芋虫)」の類はすべて「こ」だったでしょう。「なまこ(海鼠)」の「こ」もこれ。

「たらちねの母が飼ふ蠶(こ)の繭(まよ:原文は、眉)隠りいぶせくもあるか妹に逢はずして」(万2991:「蠶(サン)」は、この字の誤用たる俗字、そして日本での新字体、が「蚕」。「繭」が「眉」と書かれるのは娘を監視しているような母の目を意識したということか。この歌の特異なことは、第四句の原文であり、「いぶせくもあるか」が「馬聲蜂音石花蜘蟵荒鹿」と書かれる。「いぶせし」の意は、思いが鬱積しなんともいえない、ということですが、「馬聲」は馬が、いいいい、と鳴くので「い」、「蜂音」は、蜂(はち)は、ぶぶ、と飛ぶので「ぶ」、「石花」は海洋生物(いわゆる、カメノテ)の名で「せ」、「蜘蟵」は虫の「くも(蜘蛛)」、そして「荒鹿」は、音の似た「あるか」。これらの文字表記はすべて娘と会うことの障害になっている母親をあらわしたのでしょう)。

 

◎「こ(木)」

この「こ」は樹木の幹を叩いた際の擬音に由来する。樹木を意味する。音は不安定です。

「…島廻(しまみ)にはこぬれ(許奴礼)花咲き」(万3991:「こぬれ(木末)」は「このうれ(木の末)」)。

「菓蓏 唐韻云説文木上曰果 字或作菓 日本紀私記云古乃美 俗云久太毛乃」(『和名類聚鈔』:「菓蓏(クヮラ)」。『説文』には「木上曰果 地上曰蓏」とある)。

「『汝(い)、衆(あまた)の菓(このみ)を以(も)て釀酒(さけ)八甕(やはら)を釀(か)め、吾(われ)當(まさ)に汝(い)が爲(ため)に殺蛇(をろち)を殺(ころ)さむ』」(『日本書紀』)。

「纏向(まきむく)の日代(ひしろ)の宮は……木(こ:許)の根の根蔓(ねば)ふ宮」(『古事記』歌謡100)。

「事(こと)問(と)ひし磐(いは)ねこのたち(木能立知)」(「祝詞」『大殿祭』)。

「木(こ)の葉」。