動詞「きき(効き・聞き)」に情況の進行感・持続感を表現する「り」(完了の助動詞「り」)がついたもの。語頭の「き」は消音化している。「きき(効き・聞き)」の語尾がなぜE音化し「け」になるのかに関しては「り(助動)」の項参照。「きき(効き・聞き)」という動詞は効果発生を表現することが基本であり(→「きき(効き・聞き)」の項・去年7月26日)、音響効果、言葉の効果(言葉の物理的性質は人が口から発する音響です)の発生も表現する。つまり、「~けり」は、効果発生情況にあることを表現することが基本。この効果発生を表現することは、今経験していることの効果発生にあること、今経験していることが効果を発生していること、も表現しますが、それは、今経験していることへの確認的強調であり、その効果発生は影響であり感銘にもなり、過去の、記憶の効果発生にあること、過去に経験したことが効果を発生していること、も表現し、過去の、記憶の効果発生は永続的過去への感銘にもなり、単なる過去経過への確認や強調的確認にもなる。また、未来を想い、その想的経験経過の効果にあることもある。
この語は文法では一般に「過去の助動詞」と言われるわけですが(たとえば、ありけり→あった)、この語が過去を表現している印象になるのは、ある動態が効果を発していることを表現するその自己気づき確認たるK音が過去の記憶が回想しているような印象になるからです。この語は、過去に限らず、現状たる体験も想的未来も表現する。
この語の語源に関しては、過去の助動詞「き」と、有(あ)り、である、や、来(き)と有(あ)り、であると言われるのが一般です。しかし、「~けり」は助動詞「~き」による記憶化感銘よりもその効果による効果、その感銘力ははるかに強い。
「若くへに率寝(ゐね)てましもの老いにけるかも」(『古事記』歌謡93:老いた、という現状による効果発生と感銘。「~てましもの」は、~てましものを、の、を、が無音化しているのでしょう。「~てまし」は助詞「て」と助動詞「~まし」。「若くへに」は、若いころのように、のような意)。
「見渡せば花ももみぢもなかりけり…」(『新古今集』:(ないという)現状による効果発生と(悲哀的)感銘)。
「人もなき空しき家は草枕旅にまさりて苦しかりけり」(万451:現在の心情による効果発生)。
「吾が背子がかく恋ふれこそぬばたまの夢に見えつつ寝(い)ねらえずけれ」(万639:眠れないことの原因を思っての現状効果発生)。
「古(いにしへ)にありけることと 今までに 絶えず言ひける」(万1087:過去記憶、歴史的権威による効果発生)。
「神代より言ひ伝て来(く)らく そらみつ大和の国は皇神(すめかみ)の厳(いつく)しき国 言霊の幸(さき)はふ国と 語り継ぎ 言ひ継がひけり」(万894:過去記憶、歴史的権威による効果発生)。
「赤玉は緒さへ光れど白玉の君が装(よそひ)し貴くありけり」(『古事記』歌謡8:現実化する悠久の時間による感銘)。
「式部卿宮、明けん年ぞ五十になり給ひける」(『源氏物語』:自己が推測し確認を得たこと(つまり未来のこと)の効果発生)。
効果発生、効果にあることの表明、は感銘も表現する。
「薬 (くすり)しは常のもあれど稀人(まらひと)の今の薬し尊(たふと)かりけり賛(め)だしかりけり」(『仏足石歌』:「し」は「大和しうるはし」(『古事記』歌謡31)などにあるそれ。「めだし」は「めで(愛で)はし(愛し)」でしょう)。
古代には否定への感銘の「~ずけり」と言う表現もあった(後には「ざりけり」)。「…にある我を 知らにそ人は待てど来(こ)ずける」(万589:上記万639も)。
助詞「て」に続く「~てけり」という表現もある。この「~けり」は後に俳句の切れ字になる(効果発生は感銘を表現するということです)。
「人によりけり」や「ものごとにけりをつける」の「けり」もこれ。「けりをつける」は蹴(け)るわけではなく、最終的な効果発生を生じさせる→終わらせる、ということ。