◎「けふ(今日)」

「きひえへゐ(来日得経居)」。「きひえ(kihie)」が「け」になり(あるいは、H音が退化した「きぇ(kiye)」のような音(オン)がそう書かれ)、「へゐ」が「ふ」になっている。来ている日(太陽)を得ながら経過している居(ゐ:時間情況体験)、の意。日(ひ:太陽)を体験している人の体験しているその日(太陽)の出から日没までの時間域を言う。のちには、暦と時間概念(一日を時間で割ること)が一般化して以来その時間域は拡大し、日の出前の0時から日没後の24時までを言う。0時は「0時」と呼べば一日の始時であり、「24時」と呼べば終時です。

音は「きょふ・きょう」になっていく。「ぇ(ye)」が「ょ(yo)」になっていくのはE音U音の母音連音の影響。

「けふ」という表記は「よ」や「つ」などを小さく書くという表記習慣の無い時代に後世なら「きぇ(kiye)」のような「きょ(kiyo)」のような音がそう書かれたということ。さらに濁点や半濁点を書くという習慣さえなければ、後世なら「ぎょう(業)」と書かれるような音(オン)も「けふ」と書かれる。

「ももしきの 大宮人は ……庭雀(にはすずめ) うずすまり居て 今日(けふ:祁布)もかも 酒(さか)みづくらし」(『古事記』歌謡102:「うずすまり」はその項。「さかみづくらし」に関しては「さかみづき」の項)。

「きのふもけふも(伎乃敷毛家布毛・昨日も今日も)雪は降りつつ」(万4075)。

「今日 イマ ケフ」「此日 ケフ」(『類聚名義抄』)。

 

◎「きのふ(昨日)」

「きいぬるひをへゐ(来去ぬる日を経居)」。「ぬるひを」がR音が退行化しつつ「ぬほ」のような音(オン)を経つつ「の」になり「へゐ」が「ふ」になっている。「を」は助詞ですが、状態を表現する。来て去った日(太陽)それを経過している居(ゐ:時間情況体験)・その当日、の意。来て去った日(太陽)の経験は無数にあるわけですが、「いぬ(去ぬ)」が言語活動現在のそれである「ひ(日)」は前日の日(ひ)です。すなわち「きいぬるひをへゐ(来去ぬる日を経居)→きのふ」、来て去った日(太陽)を経ている(経過している)、居(ゐ:時間情況体験)は、今日を基点としてその前日の居(ゐ:時間情況体験)であり、前日です。

「葦鴨(あしがも)の集騒(すだ)く旧江(ふるえ)に一昨日(をとつひ)もきのふ(伎能敷)もありつ」(万4011:「をとつひ(一昨日)」はその項)。

「きのふも今日(けふ)」も見つれども」(万1014)。

「きのふこそさなへ(早苗)とりしかいつのまにいなは(稲葉)そよきて秋風の吹く」(『古今集』)。

「昨 キノフ」(『類聚名義抄』)。

 

(以下は以前にふれたのですが、変更や加筆もあります)

◎「あす(明日)」

「あせゐ(明せ居)」。明るくなることを表現する「あせ(明せ)」という動詞があり(→「あさ(朝)」の項)、それによる「あせゐ(明せ居)」。明けて居る状態であることを表現する。すなわち、ある日を基点にして、夜が明けて居る状態。すなわちその翌日。ただし、「あせ(明せ)」という動詞は資料にはない→「あさ(朝)」の項。

「置目(おきめ)もや 淡海(あふみ)の置目 明日(あす:阿須)よりは み山隠りて 見えずかもあらむ」(『古事記』歌謡112)。

「明日 アス」(『類聚名義抄』)。

 

◎「あした(朝・明日)」

「あせゐした(明せ居下)」。動詞「あせ(明せ)」はは「あす(明日)」や「あさ(朝)」の項。「あせゐした(明せ居下)→あした」は、明るくなった、明けた、もとにある、ということであり、夜が明けた状態、朝(あさ)にあることを意味する。また、暗い夜に言われ翌日を意味するようになる。つまり「あす(明日)」の意味で用いられるようになる。また、夜が明けた状態は「あさ(朝)」ということが一般的になっていく。

「…鳴く声を 聞かまく欲りと 朝(あした:安志多)には 門(かど)に出で立ち 夕(ゆふへ)には 谷を見渡し… 」(万4209)。

「一宿(ひとよ)の間(ほど)に稻生(お)ひて穗(ほ)いでたり、其(そ)の旦(あした)に垂頴(かぶ)して熟(あからか)なり、明日(くるつひ)の夜(よる)更(さら)に一(ひと)つの穗(ほ)を生(な)せり」(『日本書紀』)。

「若(も)し法師(ほふし)今日(けふ)亡(し)なば朕(われ)從(したが)ひて明日(あした)亡(し)なむ」(『日本書紀』:この「明日」は、あすのひ、とも読まれていますが、次の日、の意)。

「旦 …アシタ…アケヌ……ツトメテ」「朝 ………アシタ……ツトメテ」(『類聚名義抄』:この「朝」に、あさ、という読みはない)。

 

◎「あさって(明後日)」

「あさて」の変化。変化というよりも、原形に近い形。

◎「あさて(明後日)」

「あすさりて(明日去りて)」。明日去りての日、の意。明日(あす)の次の日。

「明朝後日 アサテ」(『類聚名義抄』)。

 

◎「しあさって(明後日の翌日)」

「あすひしあさって(明日日為明後日)」。「あししあさって」のような音を経、語頭の「あ」は無音化し、「しあさって」になった。「あすひしあさって(明日日為明後日)→しあさって」は、明日(あす)の日(ひ)を為(し:そう想定し)、明後日(あさって)、の意。すなわち、今いる日の次の日(明日(あす))を想定し、その日にあると仮定した明後日(あさって)。今いる日が一日(ついたち)とすれば四日。