◎「けなり」
「けににねあり(気に煮音有り)」。「けにに(気に煮)」の、音(ね)がある、感じられる「け(気)」に、煮(に)える音(ね)がある、ということであり、「け(気)」が煮えているわけではないが、煮える予感や、(思いが)煮えるような気(キ)がする、ということです。どういうことかというと、「にえる(煮える)」とは嫉妬を感じていること、うらやましい思いにあることであり、それから感じられる気(け)に煮えるような思いにとらわれそうだ、ということです。それが、嫉妬を感じていること、うらやましい思いにあることを表現した。
「丹後の国へお戻りあるか。けなりやな」(『説経 さんせう太夫』:「説経・説教(せつきやう)」は説経節などとも言う大衆芸能)。
「びしゃもんれんがの面白さに、悪魔降伏うちはらふ鉾(ほこ)を汝にとらせけり。あらあらけなりや、けなりやな。我にも福をたび(たまひ)給へ」(「狂言」)。
「けなり」を語幹とする形容詞表現「けなりい」も現れている。
「いづかたもにぎやかなるがけなりうて…」(「狂言」)。
・この語に「つよがり(強がり)」、「みたがり(見たがり)」などの「~がり」(→「がり」の項2021年7月9日)のついた「けなりがり」(「けなるがり」とも言う)という表現もある。意味はうらやましい思いが逸(はや)ること。
「芸子に目をつかはせ、下なる見物にけなりがらせる」(『世間胸算用』)。
うらやましげ、という意味の「けなりげ」もありますが(→「Qenarigue. ………Qenarigueni miyuru(けなりげに みゆる). Parece que dessea,o tieue embidia en Buena parte(望んでいるか、かなり嫉妬しているようだ)」(『日葡辞書』:原文のsはロングエス))、「けなりげ」には他の意味のそれもある(→その項)。