◎「げた(下駄)」

「ゲツは(月歯)」。「月」の字の形体の歯(は)のもの、という意味ですが、これは「あしだ(足駄)」(その項・下記)の一種たる足の履物であり、木製の、平らな底面に歯状の、平面片状の、突起がある(通常、二本。その歯が木材が切り込まれ削られ作られている場合もあれば、別に作られたその部品がはめ込まれる場合もある)。それを底面側から見ると「月」の字に似ているということです。「目(め)」の字にも似ていますが、足の裏に目があるのは気持ちが悪い。

「京阪ハ木履、高低ヲ擇(えら)ハズ皆下駄ト云テ高キヲモ足駄ト云ズ高下駄ト云差歯ナルモノハ指下駄ト云丸下駄ヲ専用シテ角稀……………今世江戸ノ足駄………角ヲ専トシテ丸ヲ用フ人稀ナルヲ京阪ニ反ス…」(『守貞漫稿』(1800年代中頃成立):「げた(下駄)」という語は関西から発生している印象を受ける)。

 

◎「あしだ(足駄)」

「あしにとは(足荷と端)」。「と」は思念的になにかを確認する。「は(端)」は平面的部分域。「あしにとは(足荷と端)→あしだ」は、足に(まるで足が背負ったかのような)荷としてある平面的部分域、の意。多くは厚めの板状の木の片に足指をかける紐状の部品(これが山形に二本つき、これは「はなを(鼻緒・花緒)」とも言い(下記※)、これに足指をかけ履物とする)。この「あしだ(足駄)」のうち、ある一定の定型的なものが「げた(下駄)」(上記)になる。1500年ころ成立したと思われる『七十一番職人歌合』(絵巻物)には「あしだづくり」が描かれる(作っているものは高下駄のようにも見えるが、表現は「げたづくり」ではない)。「屐……和名阿師太」(『和名類聚鈔』:「屐」の音は、ケキ。意味は、足の履物。つまり、遅くとも平安時代、900年代、には「あしだ」はあったということ。そういったものがそれ以前にいつごろから有るのかはよくわからない)。「足下 アシダ」(『類聚名義抄』)。「女のはけるあしだにて作れる笛には、秋の鹿必ず寄るとぞ言ひつたへ侍る」(『徒然草』)。

◎「はなを(鼻緒・花緒)」

「はなを(端緒)」。「はな(端)」は進行する物や時間の最先端の意(→「はな(端)」の項)。「はなを(端緒)」は先端にある紐状の長いもの、の意。これに足指をかけ、履物を装着させ歩行を快適にしたりする。下駄(げた)の花緒が最も一般的なわけですが、花緒は草履(ざうり)にもあり、草鞋(わらぢ)にもある。草鞋(わらぢ)にもあるというよりも、語の発生としてはそれが起源でしょう。草鞋(わらぢ)の先端から伸びる二本の細い藁縄(わらなは)状のものが「はなを(端緒):先端の緒」であり、これを左右にわけて両側の小さな輪に通すと下駄の花緒状態になり、これにより足に装着し、残った紐の部分でさらに足に固定させ装着する。

「夫(をつと)は京(きやう)へ小商(こあきなひ)、草鞋(わらぢ)も妻(つま)が手作(てづくり)の、情(なさけ)の鼻緒(はなを)足軽(あしかる)く…」(「浄瑠璃」『孕常盤(はらみときは)』)。

 

◎「けたい」

「キえたい(奇得体)」。「えたい(得体)」が、分かり納得し得るそれ、のような意となり(原意は、正しく言語表現できるもの・こと、ということ→「えたい(得体)」の項・2020年8月20日)、それが「奇(キ):珍しい、不思議、怪しい」とは、言いようがない(理解できない、奇妙な、不思議な)、のような意となる。語感が強化され「けったい」にもなる。「けたいなことの続くのは、何か変事のある知らせと」(『桐一葉』坪内逍遥)。「けったいな話や」。

易(エキ)の卦(ケ)の算木の現れ(その体(タイ))、つまり運勢、という意味の「ケタイ(卦体)」という語もあり、「イ」が脱落し単に「ケタ」とも言う。「いっそけたいくそで(いっそ卦体糞)で…」(『肝大小心禄』(19世紀最初期の随筆):運勢が糞だ(最悪なんだ)ということで、ということ。「けたいくそ」は卦体(ケタイ)が(排泄物たる)糞のようだ、ことの成り行きや現状がそれほどひどいということであろうけれど、「けたくそ悪い」の、くそ、はくやしい場合などに言うそれであり、これは「けたいくそ」ではなく、「けた(卦体)」がくそ悪い、ということでしょう)。