◎「くつち(鼾ち)」(動詞)

この語は「くつちふし」という言い方をし、それが鼾(いびき)をかくこと、あるいは、ある程度の音響にある寝息をたてること、を意味する。「くつつ(鼾つ):終止形」という動詞が単独で用いられた例はありません。この「くつちふし」は「くちうちふし(口内節)」。「ちう」が「つ」になっている。「くちうちふし(口内節)→くつちふし」は、口の中での節(ふし)、口の中での音楽的なリズムと音程のある一連のようなこと、の意。この「くちうちふし(口内節)→くつちふし」が、「ふし(節)」が「ふし(伏し・臥し)」のように用いられ、動詞化し、これは鼾をかいたり寝息をたてたりして眠ることを意味する。「程なく寝入りて、くつちふせり」(『落窪物語』)。その影響により、「くつちふし」が鼾(いびき)を発し寝る・臥(ふ)す、のような意と受け取られ、「くつち」が「いびき(鼾)」意味するようにもなる。「鼾 久豆知 又伊比支」(『新撰字鏡』)。

脳性疾患の癲癇も「くつち」と言いますが、これは「クツウうち(苦痛打ち)」。「うち(打ち)」はなにごとかを現すこと。全体は、苦痛を現すこと。そのような印象の症状。それが鼾(いびき)の「くつち」と混同し、その症状が現れることを「くつちかき」と表現されたりもした。

 

◎「くづほれ」(動詞)

「くちつしほれ(朽ちつ萎れ)」。「し」は「づ」に吸収されるようになくなった。「つ」は同動を表現する助詞。「くちつしほれ(朽ちつ萎れ)→くづほれ」は、朽ち萎(な)えたようになること。体力も気力も失せたような状態になってしまうこと。「むかしおぼえて不用なるもの………色好みの老いくづほれたる」(『枕草子』:「むかしおぼえて不用」とは、昔のそれが思われるがゆえに不用ということか)。「しほれ」と「しをれ」の表記の混乱は頻繁に起こり、この語も「をれ」と書かれ「折れ」と解され、気持ちや気力がくづほれれば身が崩れ倒れるようにもなり、「くづほれ」が身が崩れ倒れるような状態になることを意味したりもするようになる。