◎「くちなし(梔子)」

「くちにあし(口に足)」。口に六本の足があるような実の印象による名。植物の一種の名。果実は(食品であっても)黄色染料にする。黄色い料理品はあまり多くありませんが、たとえば正月の栗きんとん。タクワンがこれで色付けされることもある。「くちなし色」はその染料で染めた黄色。

「梔子 …梔 音支 子木實可染黄色者也…和名久知奈之」(『和名類聚鈔』:この語は当該書の「調度部中・染色具」の部にある。「梔」の音(オン)は、シ)。

この語の語源は、実が裂けて開かないので「口(くち)無(な)し」と言われることが多い。

「咲きにけりくちなし色の女郎花(をみなへし)いはねどしるし秋のけしきは」(『金葉和歌集』:これは梔子(くちなし)と口(くち)無(な)しがかかっているということでしょう。だから「言はねど」)。

 

◎「くちなは(蛇)」

「くちなは(口縄)」。口のある縄の印象のもの、の意。爬虫類の一種の名。この語の語源は「朽(く)ち縄(なは)」とも言われますが、朽ちていない。別名「へび(蛇)」。

「蛇 …和名倍美 一云久知奈波 日本紀私記云乎呂知 毒虫也」(『和名類聚鈔』:古くは爬虫類も「むし(虫)」と表現した)。

「亀山殿建てられむとて、地をひかれけるに、大きなるくちなは数もしらずこりあつまりたる塚ありけり」(『徒然草』:これは、これはこの地の神だ、どうしよう、ということになったが、結局、川に流され、なんの祟りもなかったという話)。

「同じ奉行。ちいさきくちなはをとらへて、是(これ)それへなぐる(投げる)といへば。たちまち面の色へんじて…」(『武家義理物語』:これは極度の蛇嫌いの人に蛇を投げていたずらしようとしたという話)。