◎「くださり(下さり)」(動詞)
「くだされ(下され)」(その項・下記)が四段活用に変化したもの。意味に関しては「くだされ」の項。古くは、飲食物に関する「くだされ」(→「くだされ」の項)がそのまま四段活用で表現された「くださり」もあった。「ハイ。酒は好きで。一升酒を下さります」(『東海道中膝栗毛』:この「くださり」は「くだされ(下され)」の項(下記)にある鬼(酒呑童子)が言っている「くだされ」と同じ意)。この飲食物に関する「くださり」がそのまま物事(ものごと)に応用され表現されると、受容される、容認される、のような意味になる。「家庭か。家庭もあまり下さったものぢゃない。家庭を重く見るのは、君の様な独身者に限る様だね」(夏目漱石『それから』:いただけるものぢゃない、のような言い方)。
「くだされ」と同じように、動態が権威から降りて来たような表現がなされ、動態の主体への敬いの念や感謝の思いを表現する。「よふ生きてゐてくださって」(「浄瑠璃」)。「こちらへいらしてください」。
◎「くだされ(下され)」(動詞)
「くだり(下り)」の他動表現「くだし(下し)」が尊敬・受け身などの助動詞「れ」(終止形「る」)で表現されたもの(「くだすことをなさり」(尊敬)「くだすことをされ」(受け身))なのですが、「くだされ」は。社会権威的高から低へ移動されるわけであり、尊敬を表現する「れ」ということになりやすいですが(「殿がくだされたる羽織」。「鶴丸といふ御剣をぞ下されける」(『保元物語』)。「安堵の御教書を下され、新地を拝領いたし、あまつさへおいとま(お暇)をくだされた」(「狂言」:これは受け身とも尊敬ともとれる表現))、くだされるのが飲食物、とくに酒など、の場合、受け身表現となり、社会権威的高から低へ移動されることをされ、という表現は、それを飲んだり食べたりすることの謙譲表現、いただく、のような意味になる。「鬼共よ、かく珍らしき御酒一つ下されて,客僧たちを慰めよ、一さし舞へ」(『御伽草子』:これは酒呑童子が仲間の鬼たちに対し源頼光が持ってきた酒を飲めとすすめている。つまり、いただいて、のような意)。
動態が権威から降りて来たような表現もなされ、動態の主体への敬いの念や感謝の思いを表現する。「あの方が言ってくだされ」(これは後には「言ってくださり」という表現になる)。「十介殿は私が命を助け下された」(「歌舞伎」)。
この「くだされ」は後に「くださり」という四段活用に変化する。「くだされた」「くだされて」は音便化し「くださった」「くださって」になる。「くだされます」は「くださります」や「くださいます」。