◎「くさり(腐り)」(動詞)

「くさ(臭)」の動詞化。「くさ(臭)」はそれが来たことにより息を吸うことができなくなり呼吸困難になるような嗅覚刺激を表現しますが(9月25日)、「くさり(腐り)」は、なにものか、比喩的にはなにごとか、がそうした臭気を発する構成状態になること。臭気を発する何かが付着したり付着した何かが臭気を発したりしているわけではありません。そのもの・(比喩的には)こと、の構成自体がそうなっている。起源的には食物に関して言われたものでしょう。たとえば死んだ、獲物たる獣や魚の生体が微生物の作用その他により組織構成は壊れ変質し異様な匂いを発するようになる。それが、食べられるか食べられないかを決める重要な要素になったわけです。腐ったものを食べると重大なことになることは経験的にわかっている。

「白き膚もあをくなり赤き唇も黒(くろく)なり六腑五臓乱(みだれ)あひてくされる中には虫うぐめきわきかへる」(『孝養集』:これは、仏教僧による、八苦の相なるものの内の不浄の相なるものの説明の一部です)。

「性根くさつても王は王」(「浄瑠璃」)。

 

◎「くされ(腐れ)」(動詞)

「くさり(腐り)」の活用語尾E音化。E音の外渉性により動態の動感がより明瞭に表現されたもの。意味は、事実上、「くさり(腐り)」と同意と言っていい状態なのですが、「くさり(腐り)」との違いは、「くさり(腐り)」はただ「くさ(臭)」の情況になり構成が崩れますが、「くされ(腐れ)」は語尾のE音の外渉感が自己動態的に作用し動態の進行感が表現される。「くされ(腐れ)」も「くさり(腐り)」もどちらも自動表現。

「…をはせし御舌どものくぢら(鯨)の死にてくされたるがごとく、いわし(鰯)のよりあつまりてくされたるがごとく…」(「日蓮遺文」・千日尼御返事(弘安三年七月二日))。

江戸時代からのことと思われますが、この「くされ」という語は「くさり(腐り)」と「くさり(鎖り)」の両意を融合させて活用語尾をE音化したような用い方がなされます。たぶん戯作系の戯表現のようなものでしょう。とくに男女間の関係に関して言う。

「心までくるなみだにて文をかよはして、くされあひたる中」(『好色訓蒙図彙(…キンモウズヰ)』)。

「腐(くさ)れ縁(ヱン)」(これは、腐った縁、という意味ではありません。腐(くさ)れだと言われればたしかにそうかもしれないが、切るに切れない鎖(くさ)りになっている縁)。