◎「くえびこ(久延毘古)」
「けゐえひこ(異居え彦)」。語尾の「ひこ(彦)」は神格化された呼称としてついている。「け(異)」は異常なこと・ものや特異なこと・ものであることを表現するそれ(→「け(異)」の項)。「え」は驚きの発声(→「え(驚)」の項)。「けゐえ(異居え)」、すなわち、異(け)なる居(ゐ:あり方)で驚く、彦(ひこ)、とは、意外性のあるところやあり方で居て驚かす彦、ということであり、何が驚くのかというと、鹿や鳥その他(人も含まれるかもしれないが)であり、なんのためにそうするのかといえば、農作物がなっている場からそれらを追い払い、害獣被害からそれらを守るためです。これは『古事記』にある語であり、大国主命の前に神が現れ、だれもその名を知らなかったが、「たにぐく(多邇具久)」が「くえびこ(久延毘古)」なら知っているだろうと言った、という話に登場する。「…所謂(いはゆる)久延毘古は、今者(いま)に山田之曾富騰(やまだのそほど)者(これ)也(なり)、此神者(このかみは)、足(あし)は雖不行(いかねども)、盡(ことごと)く天下之事(あめのしたのこと)を知(し)れる神(かみ)也(なり)」(『古事記』:「そほど」「そほづ」は後に言う、「かかし(案山子)」。『古事記』に、クエビコは今のソホドだ、と言われるのですから、これは相当な古語なのでしょう。今はまったく用いられていません)。
◎「くが(陸)」
「くにゆか(国床)」。陸地を「ゆか(床)」と表現した。「くぬが」とも言う。つまり「くぬが(陸)」の変化でもある。
「其(そ)れ薗(その)池(いけ)水(みづ)陸(くぬが)の利(くほさ)は百姓(おほみたから)と倶(とも)にせよ」(『日本書紀』:「くほさ」は利を意味する(→「くぼさ(利)」の項))。
「…大海(おほみのはら)に舟(ふね)満(み)ちつつけて(都都気弖:続けて) 陸(くが)より往く道は荷の緒(を)縛(ゆ)ひ堅(かた)めて…」(「祝詞・祈年祭(としごひのまつり)」)。
「水鳥のくがにまどへるここちして」(『源氏物語』)。
「くむが」という語もある→(「陸 …クムガ」(『類聚名義抄』)、「陸 クムカ」(『色葉字類抄』)。これは「くにみゆか(国身床)」か。「くんむか」のような音を経、「くむが」になった。国の身たる基盤。『類聚名義抄』の「クムガ」の横には「ククカ」とも書かれる。これは「くきゆか(茎床)」か。根幹たる基盤。『改正増補 和英語林集成』に「くにが(Kuniga)」もありますが、これは「くぬが」が「くんが」となり、セン(銭)→ゼニ(銭)のような変化で「くにが」になっているのでしょう。