◎「きり(錐)」

これは工具の一種の名ですが、尖った堅いものを圧し刺し回して木材に穴を穿つ際の、強い摩擦により発せられる音に由来する擬音・擬態に由来する名。きつく締め付ける際の擬態「きりきり」にも共通します。

「一納物……小刀一柄 吉利一柄」(「正倉院文書」)。

「錐 …和名岐利」(『和名類聚鈔』)。

 

◎「きり(桐)」

「きリン(木鈴)」。「ン」の無音化。「リン」は「鈴」の唐音。「鈴(リン)」は「すず(鈴)」ですが、ここでは巫女舞で手にもたれる、茂った樹木状の幾つもの鈴がついたものです。桐の円錐状の花序がそれを思わせたことによる名(※)。木(き)の鈴(リン)。樹木の一種の名。

「桐の木の花、むらさきに咲きたるはなほをかしきに……こと木どもとひとしういふべきにもあらず」(『枕草子』)。

「梧桐 ……和名…木里」(『和名類聚鈔』)。

※ この桐の木の花は「きりのタウ(桐の薹(※))」とも言う。桐の紋章に葉の上などに描かれるあれ。

※ この「タウ」は「ふきのタウ(蕗の薹)」や「タウがたつ(薹が立つ)」などのそれであり、「薹」と書かれることが一般ですが、「薹」の音(オン)は「タイ」です(中国の書に「徒哀切」とある。意味はカヤツリグサやアブラナ)。この「タウ」は「纛」でしょう。「纛(タウ)」は、「はたぼこ(幡鉾)」とも言われるもので、鑓(やり)の先に飾りをつけたようなもの。それが植物の茎がのびた状態に形状が似ているわけです。この「纛(タウ)」は儀式に用いますが、中国では軍旗のような用途にも使われています。先端には幡(はた)がついたりもしますが。長い毛の総(ふさ)のような状態になっているものもあり、大名行列で奴(やっこ)がもっている「けやり(毛鑓)」に似たものもあり、毛鑓も「タウ(纛)」と呼ばれたのかもしれません。