◎「きため(矯め)」(動詞)
「ひきとはめ(日着と嵌め)」。「ひ」は無音化し「とは」が「た」になっている。「き(着)」はことを同動すること、なにごとかを被(かうむ)ること。「はめ(嵌め)」は部分域を形成すること。「ひきとはめ(日着と嵌め)→きため」は、日を着、日を被(かうむ)り、その影響下になければあり得ないあり方にすること。そうしたあり方にはまる状態にすること。これは、矯正する、という意味になります。社会的にだけではなく、肉体的に痛みを伴うような措置が発動されること、処罰がともなうこと、もあるでしょう。
「是(こ)乎(を)任法(のりのまにま)尓(に)問(とひ)賜比(たまひ)攴多米(きため)賜(たま)ふ倍久(べく)在(あれ)止母(ども)承前(さき)尓(に)仕奉(つかへまつり)祁留(ける)事(こと)乎(を)所念(おもほし)行(めし)弖(て)奈母(なも)不堪賜(かむがへたまはず)免(ゆるし)賜(たま)布(ふ)」(『続日本紀』宣命)。
「織田信長公、豊臣秀吉公、次々出させられて、大きに悪弊(わるぐせ)をきため直されまして…」(『古道大意』)。
◎「きたまし(矯まし)」(動詞)
「きためいまし(矯め坐し)」。「めいま」が「ま」の一音になっている。「きため(矯め)」「いまし(坐し)」はそれぞれその項。「いまし(坐し)」は尊敬表現ですが、「てりいまし(照り坐し)」(『古事記』歌謡58)のように、動詞連用形に接続する表現もある。つまり「きためいまし(矯め坐し)→きたまし」は「きため(矯め)」の尊敬表現。
「太秦(うつまさ)は神とも神と聞こえ来る常世(とこよ)の神を打ちきたますも」(『日本書紀』歌謡112:「太秦(うつまさ)」という姓の人物が、「常世の神」と称する蟲(むし)を祀る異様な祭りをすすめていた人物を打ったことをほめたたえた歌)。