◎「きぞ(昨夜)」
「ひきしそよ(日来しそ夜)」。「ひ」は無音化した。「し」は過去の助動詞「き」の連体形と言われるそれ。「そ」は個別的特定性なく何かを指し示す。「ひきしそよ(日来しそ夜)」、日が来たその夜、とは、明けたその夜、であり、昨夜です。日が来たその夜は明けたその夜であり、明けたその夜は過去に無数にあるわけですが、「ひきし(日来し)」が言語活動現在のそれである「日が来たその夜」は前日の夜(よる)です。
「君そ昨夜(きぞ:伎賊)の夜 夢に見えつる」(万150)。
「きそ」とも言う。これは「し」が省かれた「ひき、そよ(日来、そ夜)」でしょう。
「昨夜(きそ:伎曽)一人(ひとり)宿(ね)て」(万3550)。
◎「きそひ(競ひ)」(動詞)
「きしほおほひ(来潮覆ひ)」。来た潮(しほ:潮流)が一人一人を、そして全体を覆っていく状態になること。多くの者たちが潮時(しほどき)になり我先にと何かへ向かう。
「誩……競言也 支曾比云(きそひいふ) 又、支曾比加太利反(きそひかたりかへす)」(『新撰字鏡』)。
「優劣をきそふ」。
◎「きそひ(着襲ひ)」(動詞)
「きそへおひ(着添へ覆ひ)」。「着(き)て」、「添(そ)へて」、全体を「おふ(覆ふ)」とは、身に着け、身に着けるものを加え、全身をそうすること。可能な限り身に着ける、のような意味でも言い、それが装いをこらす努力として現れることも言う。
「…寒(さむ)くしあれば 麻衾(あさぶすま) 引き被(かがふ)り 布肩衣(ぬのかたぎぬ) ありのことごと 着襲(きそ)へ(伎曽倍)ども…」(万892:可能な限り身に着けること)。
「かきつばた衣(きぬ)に摺(す)りつけ丈夫(ますらを)の着襲ひ(服曾比)猟(かり)する月(つき)は来(き)にけり」(万3921:これは装いをこらすこと)。