たとえば、「きりきしうむ(切りきし膿む)」(二番目の「き」は過去回想の助動詞終止形、次の「し」は動詞、ここでの「うむ(膿む)」は、化膿した、という意味ではなく、構成力が不活性化した、身体の一部が不活性的に変異や壊乱した、ということ)と体にある負傷痕跡を説明し、「きりきしうむ→きりきず」「うちきしうむ(打ちきし膿む)→うちきず」といった表現から、「きず」が負傷痕跡を意味する名になった。さまざまな意味で、物的にであれ社会的にであれ、完全さを損なうこと・ものも言う。
「 『女もえをさめぬ筋にて(おさまりがつくような性格ではなく)、指ひとつを引き寄せて 喰ひてはべりしを(噛みついたのを)、 おどろおどろしくかこちて、『 かかる疵さへつきぬれば、いよいよ 交じらひをすべきにもあらず……』など言ひ脅して…』」(『源氏物語』:指に噛みついて負傷させた(負傷というほどのことではなさそうではありますが)。
「玉(たま)に瑕(きず)」。
「呰 ……岐受」(『新訳華厳経音義私記』)。「瘡 ……痍也 痍…和名岐須」(『和名類聚鈔』)。「玦 …離也 支須」(『和名類聚鈔』)。
この語は日常的にもよく用いられる語ですが、語源は、いろいろ言われはしますが、基本的にはよくわからず、未詳、とされています。「きりすり(切り摩り)」の略か、などともいわれますが、「きり(切り)」も「すり(摩り)」も完全さを損なうことは意味しません。興味のある方は自分なりの語源を考えてみてください。