◎「きさりもち」
「きさり」は「いきひさあり(息久有り)」。「い」と「ひ」は脱落した。息が永遠にあることを現すもの、ということであり、死人が呼吸しやすくするもの。死人用の枕です。「きさりもち(きさり持ち)」は、葬送の際それを持つ人。「すなはち其處(そこ)に喪屋(もや)を作(つく)りて、河雁(かはかり)を岐佐理持(きさりもち)と爲(し) 自岐下三字以音 鷺(さぎ)を掃持(ははきもち)と爲(し)…」(『古事記』)。この語は、語義未詳、とも言われ、死者に供える食物を持つ役割のもの、とも言われます。食べ物係という点に関しては、そのすぐ後に「翠鳥(そにどり)を御食人(みけびと)と爲(し)」とあり、これは食器だけではなく食物も持参しているでしょう。
◎「きし(岸)」
「くゐしひ(来居廃ひ)」。来(く)ることも(その場に)居(ゐ)ることも廃(し)ひる、無機能化する、そうできなくなる、こと、そのような条件のところ、の意。どういうことかというと、川を挟んだ陸地部分こちら側に居た場合、川のあちら側からそれ以上こちらへ来ることも、そこに居ることもできなくなる部分域、そうではない部分がそうなる部分域。舟などに乗り川内部から陸を見てもそうした部分域がある。来ることもその場に居ることもできなくなる域は川に限らず、海でもあり得、そこが極度に急激に、まるでそこだけが崩れ落ちたかのように低くなっている地形である場合もある。つまり、水際に限らず、陸の崖(がけ)や岸壁も「きし」に成りうる。
「静けくもきしには波は寄せけるか」(万1237)。
「あしひきの山かも高き巻向のきしの小松に…」(万2313)。
・ここらあたりに「きさらぎ(如月)」という月暦(旧暦)二月の称もあるのですが、月暦(旧暦)二月の称はすべて「むつき(睦月)」の項でまとめられます。これはまとめて説明されないと意味がわからないので。