◎「きえ(消え)」(動詞)
「きひひいへ(着氷日い経)」。この場合の「ひ(氷)」は雪。「きひ(着氷・着雪)」は世界が一面に着た雪。「ひ(日)」は太陽。「い」は動態の進行感、それゆえの持続感・連続感を表現する。「へ(経)」は感覚的・経験的経過。「きひひいへ(着氷日い経)→きえ」は、雪が持続的に日を経験経過すること(雪は消滅していく)。これが動態たる消滅を表現した。自然現象が起こったり起こらなかったりはありきたりにあるわけですが、存在物が消滅し、なくなることは古代ではそんなに一般的にあることではないでしょう。そんな中で最も印象的なのは雪でしょう。これは世界を覆い、そして消滅する。
「雪こそは春日消ゆらめ心さへ消え失せたれや言(こと)もかよはぬ」(万1782)。
「あはれ知る心は人におくれねど数ならぬ身に消えつつぞ経(ふ)る かへたらば(私がかはりだったら)」(『源氏物語』:自分の身が消えそうな思いで)。
ちなみに「けし(消し)」「けち(消ち)」(別項)はこの語の他動表現ではありません。別語です。
◎「きかひ(錯ひ)」(動詞)
「きいきかひ(来行き交ひ)」。二音目の「き」は無音化した。来(き)と行(い)きという相反する、矛盾した、動態が相互交換的に交流すること。調和しない矛盾のある動態になること。構成物(建築物)の構成に安定した堅固な構成がなく、不具合が生じていることを表現します。
「掘(ほ)り堅(かた)めたる柱(はしら)・桁(けた)・梁(はり)・戸(と)・牖(まと)の錯(きか)ひ 古語云伎加比 動(うご)き鳴(な)る事(こと)尤(な)く」(「祝詞」『大殿祭(おほとのほかひ)』)。
「錯 ………ミタリカハシ アヤマル(チ)…タカ(が)フ……マシハル…キカフ コスリ…」(『類聚名義抄』)。
この語は一般に語義未詳とされています。