◎「かわき(乾き)」(動詞)
「からふはき」。「からわき」のような音(オン)を経つつ「ら」のR音は退行化しなくなった。つまり「からふは」の動詞化です。「から」は「かれ(枯れ・涸れ)」の語尾がA音化し水分のなくなった・乾燥した状態を表現する擬態ともなる(→「からからに乾く」)。『日本書紀』に「からと(乾跡)」という語もある。これは古び、乾いた、動物の足跡を言う。「ふは」は、内部に空間の無数にある、それゆえに膨らんだような、それゆえに軽そうな、それゆえに柔らかそうな、印象を表現する擬態。「あやかきのふはや(布波夜:文垣のふは屋)」(『古事記』歌謡6:これは「あやかき」にふわりと包まれているような家でしょう。「ふは」という擬態表現はそうとうに古い)。そうした、乾燥した、ふわりとした状態になることが「からふはき→かわき(乾き)」。古代においてこの表現が最も日常的に用いられたのは身に着けている布、すなわち衣料に関してでしょう。意味は、何かの、水分が抜け乾燥すること。体の水分が不足しそれを欲する状態になることも「(喉が)かわく」と表現する。
「濡れにし衣干せど乾(かわ)かず」(万1186)。
「燥 乾也 𤍜也 干也 保須 又加和久」(『新撰字鏡 』)。
◎「かをり(薫り)」(動詞)
「かへより(香経寄り)」。香が、経(へ)て(経過を進行して)、どこからともなく来る情況になること。
「神風(かむかぜ)の伊勢の国は沖つ藻も靡(なび)きし波に潮気(しほけ)のみかをれる(香乎禮流)国に…」(万162)。
「か(香)」「かをり(香)」と「にほひ(匂ひ)」の違いに関しては、「か(香)」「かをり(香)」の方が自分に、刺激として感じられる何かへ向かう動態姿勢が積極的であり表現が嗅覚刺激に限定的です。
◎「がんばり(頑張り)」(動詞)
「ガンバウばり(願望ばり)」。「バウ(望)」の音は後音に吸収されるように一音化した。「ばり」は「ヨクばり(欲張り)」「イばり(威張り)」「カクシキばり(格式ばり)」その他にあるそれ→「ばり」の項。「ガンバウばり(願望ばり)→がんばり」は、自分の願望に、願いと望みに、没頭する状態になること。ただし、目を見開いて見張り続けるようなことをすることを意味する「ガンばり(眼張り)」もある→「目が見えずば声を眼ばって置いて下んせ」 (「浄瑠璃」)。
一般にこの語の語頭は「頑」の音(オン)と言われることが多い。しかし、他を受け入れず頑(かたく)なであることは、努力してなにごとかを果たすという現実で用いられている意味に合わない。また、「我(ガ)に張り」とも言われますが、たとえば、試合を我(ガ)に張る、は、試合に我(ガ)を張る、のような意味になり、用法として不自然。
ただし、頑(かたく)なになることを意味する「がんばり(頑ばり)」という語が成立し得ないわけではない。
◎「かんがへ(考へ)」(動詞)
「かむかへ(考へ)」の変化。「かむかへ(考へ)」の項参照。
◎「かんむり(冠)」
「かがふり(被り)」の項参照。