◎「がり(許)」
「けあるいい(気有るい射)」。冒頭の「け(気)」は連濁しているでしょう。最初の「い」は指示代名詞のようなそれ→「い」の項。「それ」のような意です。次の「い」は動詞の「い(射)」ですが、これが、動態が何かを目指して、目標感をもって、進行することを表現し助詞の「へ」のような効果を果たします。「~けあるいい(気有るい射)→~がり」は、~の気(け)があるそれをめざして、~の傍(そば)へ、~のもとへ、のような意味になる。
「心のみ妹がりやりて吾(わ)はここにして」(万3538)。
「天(あめ)なる一つ棚橋(たなはし)いかにか行かむ若草の妻がりといはば足荘厳(よそひ)せむ」(万2361:旋頭歌。「一つ棚橋(たなはし)」は、一枚の板を渡した途切れることのない橋。「いかにか行かむ」は、なんとしても行こう)。
後には「がり」が名詞のように成熟し助詞の「の」が入ったりもします。「約束の僧のがり行きて」(『宇治拾遺物語』)。
◎「がり」
「げはやり(げ逸り)」。「げ」は「かなしげ(悲しげ)」「ねむたげ(眠たげ)」などという場合のそれ。「げ」の項参照(この「げ」は平安時代以降の表現)。「~げはやり(げ逸り)→~がり」は、その「~げ」、その様子、が動態情況に特異感を感じるほど昂進すること。
「おやがり(親がり)」(いかにも親だという態度を示す)。「才(ザエ)がり」(いかにも教養や知性があるという態度を示す)。「つよがり(強がり)」。「こはがり(怖がり)」。「みたがり(見たがり)」、「行きたがり」その他。
「あやしがりて寄りて見るに、筒の光りたり」(『竹取物語』)。
「人のためしにしつべき人がらなり。艶(エン)がりよしめくかたはなし」(『紫式部日記』)。
「『故殿(こどの:亡くなった主人)に年比(としごろ)候(さぶらひ)ひしなにがしと申す者こそ参りて候へ。御見参(けんざん)に入りたがり候ふ(お目にかかりたがっている)』」(『宇治拾遺物語』:文法ではこの「~たがり」は別扱いになり「助動詞」とされている)。