◎「かひ(支ひ)」(動詞)

この「か」は「かき(懸き・掛き)」(→その項)の「かと同じであり、K音の交感による気づき感(→「か(助)」の項)とA音の情況感により客観的な何かが自主動態的に交感を生じさせていることを確認表現し、この「かひ」は客観的対象交感、客観的事象交感・物的交感努力にあることを表現する。主動的に、環境にある何かに対し交感を生じさせる努力を進行させることを表現する。つまり、他動表現になる。「喬様(そばさま)に臥(ふ)して、鼻の下に物をかひて、人を以て踏ますれば…」(『今昔物語』:顔を横へ向けうつぶせに伏して寝(ね)、(長い)鼻の下にものをあてがい…)。「手をあてがひ」。「つっかひ棒(バウ):つきかひ(突き支ひ)棒」。活用語尾E音の外渉性により「かへ(支へ)」という他動表現もある。「夜、自分の部屋の襖(ふすま)に心張棒を突支(ツッカ)へておいたりしなければならなかった」(『あらくれ』徳田秋声)。

「かへ(支へ)」という自動表現もある。「つかへ(突き支へ):「つっかへ(突き支へ)」とも言う」。「パイプの途中でつかへて出てこなくなった」。

 

◎「かひ(飼ひ)」(動詞)

「かひ(支ひ)」。「かひ(支ひ)」は上記。それは主動的に、環境にある何かに対し交感を生じさせる努力を進行させることを表現しますが、「かひ(飼ひ)」はその応用であり、主動的に環境にある何かに対し交感を生じさせる努力を進行させることにより(つまり、交流することにより)その何かを維持する。その何かは生物であり、猪(ゐ:ゐのしし)なども維持されますが、古代において維持される何かの最も中心的であったのは馬でしょう(この語は非生物や植物に関しては言われない。それは動物の動態感との交流感によるものでしょう)。その維持のために行われる具体的なことは、主に、食べ物や水を与えること、そして、それが管理下から喪失しないよう(逃げたり奪われたりしないよう)施設を施すこと。用い方としては「馬をかふ」と言った場合、馬を維持する、という意味になり、「馬に水かふ」と言った場合、馬に水を維持する→馬に水を与える、という意味になりますが、後者はそれによって馬を維持している。「薬(くすり)をかひ」「毒(ドク)をかひ」といった表現もある。これは前記から発展した表現であり、それらを摂取させること。

「童女(わらはべ下(おろ)させたまひて、虫の籠どもに、露かはせ給ふなりけり」(『源氏物語』:籠の虫に水を飲ませてやるような表現)。

「そのこま(駒)ぞや、われに、われに草(くさ)こふ(乞ふ)、くさ(草)はとり(取り)かはん、くつわ(轡)取り、くさ(草)は取りかはんや、水はとり(取り)かはんや」(「神楽歌」明星・其駒)。

「天竺に安足国王と申せし大王はあまりに馬をこのみてかいしほどに、後にはかいなれて……牛を馬ともなす。結句は人を馬となしてのり給いき……他国の商人(あきびと)のゆきたりしかば薬をかいて馬となして御まやう(馬様?)につなぎ…」(『日蓮遺文』「千日尼御返事」)。