◎「かははゆし」(形ク)の語源
「かほあへあやふし(顔和へ危ふし)」。「ほあ」「へあ」が「は」になり「やふし」が「ゆし」になっている。「かほあへあやふし(顔和へ危ふし)→かははゆし」は、他の人と調和的な表情、態度をすることが危(あやう)い。その点に不安があり自信・確信感がない。すなわち、人とまともに顔を会わせることができない。
(家の掃除係のようなことをやっていた男が、その家の極めて貴重な硯(すずり)を落として割ってしまい、途方にくれていたとき、通りかかったその家の息子が、私(息子)が割ったと言え、と言って硯をもとのところへ戻し、去り) 「男、これを聞くに、いかばかりおぼえけむ。実にうれしく忝(かたじけな)くおぼえて、這ふ這ふ立ちて去りぬ。しかれども極めてかははゆくおぼえて、このことを人にいはずして耄(ほ)けあるくほどに……」(『今昔物語集』巻十九・九)。
この語は音(オン)が「かはゆし」に似た印象を受けますが、意味が異なります。ただ、心情が臆したような状態になる点は似ている。
この語は「かわはゆし」という仮名遣いで項目にしている辞書があります(その辞書という歴史資料以外、歴史資料にはそういう表記はありません。辞書の著者か編集者がそう書いただけです)。
◎「かばひ(庇ひ)」(動詞)の語源
「かはあばひ(『彼は…』庇ひ)」。「あばひ(庇ひ)」は環境から遮断しその影響から何かを保護する努力をすること (→その項参照:「むらがれる虎の遭ひて、喰ひ奉らむとしけるに、『……』とて、錫杖にてあばへりけれど…」(『撰集抄』))。「かはあばひ(『彼は…』庇ひ)→かばひ」は、『彼は…(あれは…)』と何かを環境から遮断しその影響からその何かを保護する努力をすること。人ではなく物を「かばふ」場合、これを大事に保存する、という意味にもなる。「あばひ(庇ひ)」に意味が似ているわけですが、この語の場合は『彼は…』と、その保護する何かの特定性が表現されています。保護する何かの特定感がある。
「各々は誰(たれ)をかばはんとて、軍(いくさ)をばし給ふぞ」(『平家物語』)。
「其の羽織も古いのを着て、新しいのはかばっておきなとでもいふが最期…」(「滑稽本」『浮世床』)。
◎「かはほり(蝙蝠)」の語源
「かはゐはをり(革居羽折り)」。「ゐはほ」が「ほ」になっている。「かはぼり」とも言い、この語は後に「かふぼり」「かふもり」「かうもり」になりますが、「かうぶり」「かうむり」もある。「かは」は後音に引かれ「かふ」「かう」→「こう」になっていく。「かはゐはをり(革羽折り)→かはほり」は、革(かは)のような居(ゐ)の、あり方の、羽が、まるで細い枝を折るように、折ったような印象のもの、の意。これは動物(哺乳動物)の一種の名ですが、それによって飛翔するところの、手指から尾にかけてある羽のような膜(マク)にそのような印象がある。
「『かばかりして守る所に、かはほり一つだにあらば、まづ射殺して外(ほか)にさらさむと思ひ侍る』と言ふ」(『竹取物語』)。
「蝙蝠(かはほり)は夜も戸たてぬ古寺に内外もなく飛びまがふなり」(『捨玉集』)。
「 蝙蝠 …本草云蝙蝠…一名伏翼 和名加波保里」(『和名類聚鈔』)。
「蝙蝠 訓 加波保利(かはほり) 或曰 加宇毛利(かうもり)」(『本朝食鑑』)。