◎「かど(角・才)」
「きはつほ(際つ秀)」。「つ」は空間的時間的同動を表現する助詞のそれ。「時(とき)つ風(かぜ)」(時たる風:時を得た風)、「上(かみ)つ瀬(せ)」(上(かみ)たる瀬:上位たる瀬)など。「きは(際)」は消滅へ向かう限界域ですが、「ほ(秀)」は秀(ひい)でであり、「きはつほ(際つ秀)→かど」、すなわち、消滅へ向かう限界域たる秀で、とは存在が、形体・形状として、消滅しつつ存在を誇示するように現しているもの・こと、であり、たとえば体の面と面が異なった方向で交差するその交差線部分であり、三面以上の交差点やある程度の鈍さをもった錐(スイ)の頂点です。道路の「かど(角:曲がり角)」も線と線の交差におけるこれです。さまざまな物や事の印象に関しても印象特異点、目立った点が「かど」と言われ、その発生感が抵抗感を生じて際立てば「かどが立つ」と言われ、人間の目立った、印象深い、とりわけ知的な対人的・社会的対応能力、才気、も「かど」と言われる。
「なだらかなる石かどある岩など拾ひたてたる中より」(『宇津保物語』)。
「幼(わか)くして聰(さと)く頴(すぐ)れ、才(かど)敏(と)くして識(さとり)多(おほ)し」(『日本書紀』)。
「稜 …ソハ カト」(『類聚名義抄』)。
◎「かど(門)」
「やかど(敷地戸)」。「や」の脱落。「やか(敷地)」は家のある地(下記)。家によって(社会的にも)占有されている域たる土地。その土地へ、家へではなく、その域へ、出入りする「と(戸)」が「やかど(敷地戸)→かど(門)」。後世では通常「モン(門)」と言います。
「門(かど:可度)に立ち 夕占(ゆふけ)問ひつつ 吾(あ)を待つと 寝(な)すらむ妹を 逢ひてはや見む」(万3978:これは、門(かど)のあたり、ということでしょう。「なす(寝す)」は「ね(寝)」の尊敬表現。「占(ゆふけ)問ふ」は、路の一定の域を決め、たまたまそこを通る人人が言っている言葉で何かを占うこと)。
「密(みそか)なる所なれば、かどよりもえ入らで童(わらは)べの踏みあけたる築地(ついひぢ)のくづれより通ひけり」(『伊勢物語』)。
「門 ……和名加度 所以通出入也」(『和名類聚鈔』)。
「かどまつ(門松)」。
「おかど違い」は「御門違い」であり、入る門(モン)を、すなわち家を、間違えること。
◎「やか(敷地)」
「やはか(屋努果)」。「や(屋)」の努力成果・効果ということですが、居住施設たる「や(屋)」を含みその専用占有域として広がる域を言います。つまり家の敷地です。
「やかの辰巳(たつみ:南東)の隅のくづれ、いとあやふし」(『源氏物語』)。
『和名類聚鈔』に「宇 唐韻云宇羽反 訓夜加須 宁也 宁直呂反 門屏之間也」という記述があります。「夜加須(やかす)」は「敷地巣」でしょう。「す(巣)」の原意は人の生活施設。つまり「夜加須(やかす)」は人の生活施設たる家の敷地。ちなみに、「宇(ウ)」に関しては『廣韻』に「宇宙也,又大也」とあり『説文』に「屋邊也」とある(「邊」の文部省字体、というよりも伝統的略体か、は「辺」)。「宁」に関してはその音(オン)は『唐韻』に「直呂切」とあり(つまり「チョ」)、その意は『廣韻』に「門屏閒」(「閒」は「間」と同字)とある。ようするに門(モン)と塀(ヘイ)で囲まれた内側域ということでしょう。
「地動(なゐふりて)、舍屋(やかす)悉(ことごとく)に破(こほ)たれぬ」(『日本書紀』)。
「庭宇(ヤカス)荒涼として僧徒少(すくな)し」(『大唐西域記』)。