◎「かたな(刀)」
「かたなは(片な刃)」。(両刃ではなく)片方(細長い板状の長い一端)にだけ刃があるもの(それが「かた(片)」だということは、この名が生まれた当時はその両端が線状に鋭利になっていることが刃としての完成感があったということ)。
「刀 ……似剣而一刃曰刀…大刀 和名太知 小刀 加太奈]」(『和名類聚鈔』:剣の片刃のものを「たち」(大刀)や「かたな」(小刀)という、という)。「剣 ……似刀而両刃曰剣」(『和名類聚鈔』:両刃の刀が剣だという)。
ようするに、棒を平たくつぶしたような、長い刃物は「たち」や「つるぎ」であり、それらは両刃であり、やがて小さめの片刃のものが現れ、それが「かたな」であり、それが主流になっていき、微妙な反りもつくようになっていった、ということでしょう。原形は「たち」や「つるぎ」であり「かたな」はその進化形ということです(日本刀刀身の微妙な湾曲は奈良時代末期にはあるのかもしれない)。
◎「かたばみ(酢漿草)」
「かたはみ(片葉見)」。(夜間)葉が折りたたまれ、片葉(かたは:半分の葉)を見るもの、の意。植物の一種の名。クローバーのようなハート型の三枚の葉のある、春に黄色い(他の色の種類のものもありますが)五片の小さな花の咲く、日本では平凡な草性の植物です。名は知らなくても、誰でも見たことはあると思います。この草は夜になると折りたたむように葉を閉じます。そして朝になるとまた開く。
◎「さきくさの(枕詞)」の語源
「さきくさの」という枕詞があるのですが、「さきくさ」は、一般には、どの植物をさしたかは未詳、といわれ諸説言われていますが、酢漿草(かたばみ)(上記)と思われます。語の原形は「ふせあきくさ(伏せ開き草)」でしょう。その「ふ」が落ち、「せあ」は「さ」になった。酢漿草(かたばみ)はその葉が夜は伏せ(閉じ)朝に開くを繰り返します。それが「ふせ・あき(伏せ・開き)」。「かたばみ」はハート形の葉が三つあり、「さきくさの」は「み(三)」や「なか(中)」にかかります。「なか」にかかるのは三には中心があるからです。
「夕星(ゆふづつ)の 夕(ゆふべ)になれば (子が)いざ寝(ね)よと(寝ようよと) 手を携(たづさ)はり(手を引き) 父母も うへはなさがり(もうそうなったら引きさがることはできず。従うしかなく) 三枝(さきくさ)の 中にを寝むと(子が父母の中に寝ようと) 愛(うつくし)く(※下記) 其(し:それ。亡くなった幼い子)が語(かたら)へば……」(万904:これは長歌の、亡くなった幼い子の生前の思い出を語っている部分です)。
※ 「うつくし」という語、すなわち「うつくし(現奇し・美し)」は明瞭な現実感への深い感銘、その影響の深奥感、を表現します。それは現実にありありと見、起こる情感の湧起に胸がつまるような感銘です。