◎「かたし」(動詞)
「かたあはし(方・型・形合はし)」。「かた(方・型・形)」はその項(3月13日)。「あはし(合はし)」は「あひ(合ひ)」の使役型の他動表現。「かたあはし(方・型・形合はし)→かたし」は、それとあるあり方に合わせる、のような意味になります。あるべき(もとあった。元通りの)あり方にする、のような意味です。これが整理整頓することを意味する。「かたづけ(形付け)」(整理する)に意味が似ています。「散らかしておかないで。かたしておきなさい」。
この語はそうとうに全国的に広まっているのかもしれませんが、元来は関東系の表現です。関西方面では同じような意味で「なほす(直す)」という言い方をします。アルバイトなどで、関西系の上司に『この箱なおしといて』と言われ、関東系の部下が『こわれてるのかな?』と思ったりします。「修理(なほ)す」だと思うわけです。
◎「かたし」の語源
『日本書紀』にある「鉤(ち:釣り針)をかたし」という表現によりあると思われた動詞。ある辞書にその意味は「鉄などをきたえて刀剣などをつくる」とあります。『日本書紀』にあるこの「かたし」は動詞「かち(搗ち)」の尊敬表現。「かち」は金属を鍛造することも表現したということです。金属を鍛造することを「かち」と表現したと思われることに関しては『和名類聚鈔』の「鍜冶具」の部に「和炭 漢語抄云和炭 邇古須美(にこすみ) 今案一云加知須美(かちすみ)」とあります。これは「かぢすみ(鍛冶炭)」ではないでしょう。「ぢ」なら別の字を使いそうです。同じ『和名類聚鈔』の「舟具」の部には「檝 釈名云檝 和名加遅(かぢ)」(「檝」は「楫」と同字)があります。「鯨(くぢら)」は「久知良」ですがこの語は歴史的には「くじら」とも書かれる語。「鯵(あぢ)」は「阿遅」。「にこすみ(和炭)」は鍛冶用の炭です。
「弟(おとのみこと)患(うれ)へて、卽(すなは)ち其(そ)の横刀(たち)を以(も)て新(にひ)しき鉤(ち)を鍛作(かた)して、一箕(ひとみ)に盛(も)りて與(あた)ふ」(『日本書紀』)。少し後の「一書」には同じ部分が単に「鉤(ち)を作(つく)りて」とあります。
ただし、『色葉字類抄』(1177-81年)に「淬 カタス」という語はあり、(『日本書紀』の影響で)「鉄などをきたえて刀剣などをつくる」という意味で相当に古くから言われている可能性はあります。
◎「かたし(固し・堅し・難し)」(形ク)の語源
「かた」は「かとや」。「か」は外部からの力に対しそれに応じ変形しその力を吸収したりその力により構成力が破綻し崩壊したりすることのないものどうしが接触した際の音響に由来する擬音。「と」は助詞。この「と」は状態を思念的に確認する。「や」は詠嘆。これによりそうした、外部からの力に対しそれに応じ変形しその力を吸収したりその力により構成力が破綻し崩壊したりすることのないものを経験していることが表現された。「かたし(固し・堅し・難し)」はその「かとや→かた」の形容詞表現。物(もの)に関してだけではなく、人の外部影響に対する状態、動態や事象の展開、社会的な状況進行にそうした容易に変形・変質したりしない「かた(固・堅)」の印象があったり、それにより動態や事態に難渋さや困難がある場合も「かたし(難し)」と表現します→「言い難い」等。「ありがたい(有り難い)」もそうした動態や事象・状況展開が有ることが困難であることが原意。人であれ神仏であれ、そうした「有り難い」ことを成し遂げた主体が敬われます。