◎「かたぎ(気質)」

「かたき(型木)」。模様その他で模範型となる木製のそれ。社会の秩序の中での模範型、そのような模範型が形成されている人。

「かた(型)」は理想たる一般的抽象的あり方を意味しますが(3月13日)、多数の染め物その他を作る場合、それにより同形のものを作る模範となる木製の「かたぎ(型木)」という語はあり、その語の人への応用が「かたぎ(気質)」。すなわち「かたぎ(気質)」は人の一般的抽象的あり方。そのあり方も種々あり得、また時間的推移によっても変化し「むかしかたぎ(昔気質)」は昔は普通にあった人の一般的抽象的あり方。

「古仏は昔の仏工それぞれのかたぎ有り。これを写して…」(「浮世草子」)。

「家中の人々うらやましがりて、皆この風になりて、心だてきたなくかたぎわろく成なり」(「浮世草子」)。

「Catagui.  (訳)風習」(『日葡辞書』)。

人の見た目の様子や性質なども言います。

「景虎当年十七歳になり給ふが、弓矢をとりて性発なる事、晴信公の御形儀に少しも違はぬと…」(『甲陽軍鑑』)。

「ただ、誠(まこと)の花は、咲く道理も、散る道理も、心のままなるべし。されば久しかるべし(そのようだから永遠なのだ)…………真の風体形木は面々おのおのなれども、面白き所はいづれにも亙(わた)るべし…………我が風体の形木を極めてこそ、遍(あまね)き風体をも知りたるにてはあるべけれ」(『風姿花伝』「問答條々」と「奥義讚嘆云(あうぎにさんたんしていはく)」)。

(参考)「赤紐をかしうむすびさげて、いみじうやうじたる(瑩じたる)しろき衣、かた木のかたは絵にかきたり」(『枕草子』:通常は布に型木でプリントするような模様たる型がすべて手書きの絵で描かれていた、ということ。「瑩(やう)」は『廣韻』や『集韻』に(音(オン)は)「永兵切」(意は)「玉色」「石似玉」と書かれるような語であり、「やうじ(瑩じ)」は絹を貝で磨いて艶をだすこと)。

 

◎「かたぎ(堅気)」

「かたぎ(堅木)」。その材質が堅く伐(こ)ることにも苦労し、簡単に燃えて消失することもない木を言う「かたき(堅木)」という表現があり、「かたぎ(堅気)」はその、人に応用された表現。すなわち、人の性格やその生活態度が、環境との関わりにより容易に崩れたり壊されたりすることがなく、色事であれ酒であれなんであれ、放蕩したりすることもなく、賭け事的な行為により一攫千金を狙ったりすることもなく、堅実、実直なものであること。「ヤクザが堅気になる」も博奕に生きるような生活を離れ、堅実・実直な生活に入ること。

「何(どう)か好(よ)い機(をり)を見て斤量取とかいふ其(その)役を返上(かへ)し、京都へ上(のぼ)って来て今度は堅気(かたぎ)に此方(こち)で家(うち)持ち商売はじめよと説くばかり」(『いさなとり』幸田露伴)。

「正盛 『貴殿(きでん)髭黒左大将(ひげくろさだいしゃう)へ諫(いさ)めを入(い)れんとお云(い)やれど、いつかな以(もつ)て翻(ひるが)へらぬ、道包(みちかね)卿(きゃう)の御企(おんくはだ)て。それゆゑ我(わ)れも玉杯(ぎょくはい)を、いま捧(ささ)ぐるのその折(をり)から、貴殿(きでん)も堅気(かたぎ)をお云(い)やらずと、これより時(とき)のよろしきに、随(したが)ひ召(め)さるがマア当世。頼信ともども勧め召され』  頼信 『イヤ、父(ちち)は兎(と)もあれ、この頼信(よりのぶ)、などか悪意(あくい)に随(したが)ひ申(まを)さん』」 (「歌舞伎」『戻橋脊御攝(もどりばしせなにごひいき)』)。

(参考)「かたぎこる(伐る)たつき(鐇)の斧(をの)のえ(柄)をよわみ思ひきられぬ世にこそつらけれ」(『夫木(フボク)和歌抄』:「たつき(鐇)」は刃幅の広い斧)。