「かはてら(「彼は」手ら)」。語尾のR音は退化しています。「かは(彼は)」は、「あれは」ということ。「て(手)」は、原意は身体の部分たる人の手(て)ですが、それが人間の自然生態として何かや方向を指し示すことから、(空間的・時間的)方向・あり方、を意味する(空間的方向としては「かみて(上手)・しもて(下手)」。ものごとのあり方・方法としては「その手があったか」)。それは空間的・時間的・人的・社会的・物的に無限にありうる変動のあり方、あるそれ、をすべて意味する(空間的方向も、ものやことの方向(あり方)もということ。それにより、「かた(方・型・形)」の意味は非常に広範なものになる)。「ら」は情況や複数を表現しますが、複数化されるということは、それが個別的・具体的なことではなく、一般化されたことであることも表現します。「かはてら(「彼は」手ら)→かた」は、「かは(彼は)」・「あれは」という、想的(抽象的)・一般的にそれたる、あり方(手)の情況にあること・もの、です。前記のように、その意味は非常に広範です。
「はしけやし我家(わぎへ)のかたよ(より)雲居(くもゐ)立(た)ち来(く)も」(『古事記』歌謡33:空間的あり方。地上における対象の位置のあり方)。
「霜だにも置かぬかたぞと言ふなれど…」(『土佐日記』:気象条件による空間的位置のあり方。霜さえおかない所と言うが…) 。
「ゆふかた(夕方)」(一日の時間推移によるあり方) 。
「(娘の)おくれたるかたをば言ひかくし」(『源氏物語』:人の性格や能力におけるあり方)。
「ひたふるの世すて人は、なかなかあらまほしきかたもありなん」(『徒然草』:人生のあり方)。
「せむかたもなく」「しかたない(仕方ない)」(社会的な対応のあり方) 。
「今日はなほかた異に儀式まさりて」(『源氏物語』:儀式や作法のあり方) 。
「はやしかた(囃子方)」(芸能における役割のあり方) 。
「あのかた(あの方)」(ただ方向的あり方のみ表現し直接に表現しない間接性が尊重・尊敬表現になる。ただ「かた」と言って仏像を意味したものもある)。
「いがた(鋳型)」(鋳(い)の物的あり方)。「最新型自動車」(時間的変動を前提とした自動車の物的あり方)。
「ははかた(母方)の祖母」(血族関係のあり方) 。
「借金のかた」(価値として同じあり方のものとして代替するもの。担保)。
「あとかたもない(跡形も無い)」(なんらかの痕跡たるあり方) 。