◎「かせ(悴せ)」(動詞)

乾き枯れたような状態を表現する擬態に「かさかさ」があるが、その「かさ」の直接動詞化。(たとえば傷口が)乾燥したりすることも表現するが、ひからびたように生気を失ったり、衰えたり粗末な状態になったりすることを表現する。それが、痩せた貧相な、や、社会的な意味でそれを表現し、貧しい、を表現した。詩歌で「詞がかせ」は言葉が情感や内容の貧しい粗末なものになる。「かせ侍(ざむらひ)」といった表現もある。

製糸具たる「かせ(桛)」 (3月8日・昨日)がそのまま動詞化した「かせ(桛せ)」もあり、桛糸(かせいと)を取ることを意味する。

また、「漆(うるし)にかせて(かぶれて)」といった表現もありますが、これは「かさ(嵩)」がそのまま動詞化しているのでしょう。意味は、嵩(かさ:量的規模)が増すこと、(皮膚が)腫(は)れること。

 

◎「かせぎ(稼ぎ)」(動詞)

「かさせき(嵩急き)」。「せき(急き)」は勢いをもって何かをすること。「かさせき(嵩急き)」は、嵩(かさ:量規模)を増やすためにせっせと努力すること。「あの息子もよく挊(かせ)いで利口者だから身上は大丈夫だ」(「滑稽本」)のように、経済的規模量に関して言われることが多いが、社会的な影響力に関してなども言う。「せめて武家方の若党にもなりて奉公を勤めばやと思ひ、方々の御大名方をかせぐ所に」(「仮名草子」:関係拡大に努めた)。

 

◎「かそひ(掠ひ)」(動詞)

「かはしひおひ(『彼は』癈ひ追ひ)」の音変化。「かはしひ(『彼は』癈ひ)」は、『あれは…』と気づき認知することが無力化していること。それを「おふ(追ふ)」とは、それを追求すること、その状態を追求し、人がその状態になっていることを利用し、何かをすることである。すなわち「かはしひおひ(『彼は』癈ひ追ひ)→かそひ」とは、人に気づかれぬように何かをすること、とりわけ、人が気づかぬうちにひそかに侵略し我が物にしてしまったり、盗み取ったりすること。意味は「かすみ(掠み)」(3月6日)に似ている。

「天つ日嗣高御座の次(つぎて:順序)をかそひ奪い盗まむとして…」(『続日本紀』宣命)。

 

◎「かそけし(幽し)」(形ク)

「かそか」の形容詞化。「はるか(遥か)」→「はるけし(遥けし)」のような変化(この変化に関しては「けし」の項)。「かそか」は「きはそふか(際沿ふか)」。語尾の「か」は、疑問を表現するわけではなく、「はるか(遥か)」や「さはやか(爽やか)」その他の語尾にあるそれであり、それに関しては「はるか(遥か)」の項。「きはそふか(際沿ふか)→かそか」は、際(きは)に、存在・不存在の限界に、同動している(沿っている)、ということ。今にも消え入りそうであること。「かそけし」はその形容詞表現。

「月の山の半ばを出でたれども薄雲のをほへる(覆へる)がごとくかそかなりしを…」(『日蓮遺文』:この「かそか」は「かすか(微か)」とほとんど意味が変わらないわけであり、「かすか(微か)」の形容詞化たる「かすけし」という語もある)。

「吹く風の音のかそけきこの夕(ゆふべ)かも」(万4291)。